前年度までの研究成果から、歩行観察中の皮質脊髄路(corticospinal tract: CST)の興奮性変化は実際の筋活動パターンとは異なり、歩行特有の変化を示すことが明らかとなった。また、このCSTの興奮性は、歩行観察の経験を有する者では増大することから、観察経験は歩行観察中の神経機構に影響を与えることが示された。 今年度は、前年度から継続して検討を行っている歩行がもつ運動特性(周期的かつ多関節運動であるという運動特性)がCSTの興奮性に与える影響について詳細な検討を行った。その結果、歩行観察中のCSTの興奮性は、歩行を多関節運動として捉えるよりも単関節運動として捉えることで増大することが示された。この結果は、多関節運動である歩行では、注意の限定化がCSTの興奮性に影響を与えることを示しており、観察者がもつ観察経験や知識は、トップダウン的に注意の方向を限定し、結果としてCSTの興奮性を増大させる可能性が示唆された。また、観察した歩行と全く同一の足部の周期的な運動のみを観察した場合には、実際の筋活動パターンと一致した形でCSTの興奮性が変化した。本研究のこの結果は、歩行観察時には歩行特有のCSTの興奮性変化を示すというこれまでの報告をより強く支持する結果となった。 今年度検討を深めることができた研究成果については、論文としてまとめ、国際誌に投稿する予定である。
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