失語症は脳内の言語に関連するネットワークが外傷や脳梗塞等により損傷されることで発症する。障害された言語機能のリハビリテーションは、残存した脳部位の機能を活用したり、あるいは代替部位によって機能が再編成されたりすることで達成されると考えられている。リアルタイムfMRIニューロフィードバックを用いて脳の可塑性に働きかけることにより、こうしたリハビリテーション過程を促進することが可能かもしれない。本研究はより効率的なfMRIニューロフィードバック・パラダイムの策定のため、まず脳内における統語処理と意味処理のネットワークを分離することを目指した。健常成人19名を対象としたfMRI実験により、左中側頭回後部と左下前頭回弁蓋部をつなぐ背側経路が文理解における統語処理を行い、左前部側頭葉と左下前頭回三角部をつなぐ腹側経路が文の意味的な統合にかかわることを示した。また、言語の理解には統語処理に加え、単語の情報を一時的に保持するワーキングメモリの機能が必要とされる。別の健常成人19名を対象にfMRI実験を行い、左下前頭回弁蓋部の担当する統語処理はワーキングメモリの負荷とは独立であり、文処理にかかわるワーキングメモリには左下前頭回と隣接する前頭弁蓋op9という領域が関与していることを示した。これらの成果に基づいて、左下前頭回弁蓋部を関心領域としたリアルタイムfMRIニューロフィードバックを行い、脳活動を増強する訓練を健常成人8名に対して実施した。この訓練の前後に、文優越性記憶課題といわれる課題を行ったところ、左下前頭回弁蓋部のニューロフィードバックによる正答率の向上が見られた。
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