研究実績の概要 |
本研究の目的は,右半球損傷で最も多くみられる高次脳機能障害である左半側空間無視(USN)患者を対象に,iPadを用いた読書アプ リケーションの開発を試み,開発した読書アプリケーションの実用性を検証し,さらに読書アプリケーションの活用によるUSN症状の治療効果についても検証することである. USNの一因とされている「注意の右側偏倚により左側の探索が減ること」に着目し,「右側から読んだ行を消すことで,左側への探索が可能となる」という仮説のもと,読書アプリケーションの開発を行った. 開発した読書アプリケーションでは,読んだ行が一行ずつ消えるように表示されるため,通常のアプリケーション画面のページごとに提示される文章表示とは異なる.この異なる提示方法が物語の理解度に影響を及ぼすのか,平成28年度までに健常者大学生において検証を行った結果,文の削除の有無で内容の理解度に有意な差は認めなかった. 平成29年度の計画では,健常高齢者とUSN患者を対象とした理解度に関する検証実験を予定していたが,厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の改訂に伴い,倫理審査書類の作成やUSN患者を対象とした研究協力機関との手続き上の問題が発生し,研究を進めることが困難であったため研究方法の一部を変更することとした. 現在,健常者の年代別の読書アプリ利用時のデータ(正常範囲)を採取する予定であり,倫理審査の申請中である.USN患者を対象としたデータの採取については,慎重に他機関との連携と調整を行い,可能な範囲で進めていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度の計画では,健常高齢者とUSN患者を対象とした理解度に関する検証実験を予定していたが,厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の改訂に伴い,倫理審査書類の作成に手間取った. またUSN患者を対象とした研究協力機関でも施設内の倫理指針に対する対応が十分に整っておらず,研究手続き上の問題が発生したため,研究を進めることが困難であった. このため研究方法の一部を変更することで,平成30年度の研究を進めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の改訂に伴い,倫理審査書類の作成やUSN患者を対象とした研究協力機関との手続き上の問題が発生し,臨床研究を進めることができなかったため,臨床研究にかかる費用を使用することがなかった. USN患者を対象としたデータの採取については,研究協力機関での倫理指針が整うまでに時間を要することが予想され,今後も研究を進めることに困難が生じることが考えられる.このため研究方法の一部を変更することにした. 平成30年度は,健常者の年代別の読書アプリ利用時のデータ(正常範囲)を採取することを優先し,USN患者のデータ採取に関しては慎重に準備を進めていくことにする.健常者の年代別データの採取については現在,倫理審査の申請中であるため承認が得られ次第進めていく予定であり,研究費は検査用紙等の印刷,検査協力者への謝金,成果報告のための学会参加費,旅費等に用いる予定である.
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