研究実績の概要 |
本研究の目的は,右半球損傷で最も多くみられる高次脳機能障害である左半側空間無視(USN)患者を対象にiPadを用いた読書アプリ(読書アプリ)の開発を試み, 開発した読書アプリの実用性を検証し,さらに読書アプリの活用によるUSN症状の治療効果についても検証することである. USNの一因とされている「注意の右側偏倚により左側の探索が減ること」に着目し,「右側から読んだ行を消すことで左側への探索が可能となる」という仮説のもと,読書アプリを開発した. 開発した読書アプリでは,読んだ行が一行ずつ消えるように表示されるため,通常のアプリケーション画面のページごとに文章が表示されるパターンとは異なる.この異なる提示方法が物語の理解度に影響を及ぼすのか,健常者において検証した.結果,若年者においては1画面に提示される短文での文章表示では,読んだ行が消えるパターンと消えないパターンで文章内容の記憶に有意な差は認めなかった.この結果は,文章が短文であったことや日常的にスマートフォンを使用している者が対象となっているためである可能性も考えられるため,長文における文章の理解度やスマートフォンを使い慣れていない者の文章の理解度についても検証する必要がある. そこで,高齢者を対象に若年者で実施した内容と同様の1画面に提示できる短文で,読んだ行が消えるパターンと消えないパターンで文章内容の記憶状態について比較することと,読書アプリで長文を読んだ際の意見を調査することを計画したが,実施までには至らなかった.
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