視覚障害者にとって誘導ブロックや音声案内は路面情報へのアクセシビリティを高める。しかし、障害の程度により「見え方」や「感覚」は異なるため、今後は視覚障害別の歩行特性に基づいた支援が必要である。本研究は視覚情報の違いが歩行動作に与える影響を検討し、視覚障害別の歩行特性を明らかにする。正常眼の若年者10名に対して、アイマスクとシミュレーションレンズを用いて4種類(晴眼、低視力0.02、視野狭窄5°、全盲)の視覚条件を設定した。照度を調整した20mの歩行路を用いて、通常歩行を各視覚条件につき3回ずつ行なった。歩行動作を高速度カメラ6台で撮影し、歩行1サイクルの解析を行い、歩幅、歩行速度、右脚踵離地時(TO:Toe Off)及び接地時(HC:Heel Contact)足底角、頭部前後傾角等を算出した。晴眼条件の歩行は、若年者の通常歩行を調査した先行研究と同等の傾向が得られた。低視力条件の歩行は、歩行速度、歩幅もに晴眼条件の次に高い値を示し、全盲条件よりも有意に高い値を示した。視野狭窄条件の歩行は、歩行速度、歩幅、TO足底角が晴眼条件と比較して有意に低い値を示した。また歩行中の頭部前後傾角は他条件と比較して前傾傾向が認められた。全盲条件の歩行は、歩幅、歩行速度、HC・TO足底角が他条件と比較して有意に低い値を示した。結果より、晴眼歩行から視覚情報の制限がより大きくなるにつれて歩容への影響は増加することが示された。特に全盲歩行は所謂すり足歩行の傾向がみられた。また、視野狭窄歩行は頭部を前傾した姿勢で歩行するのに対し、低視力歩行と全盲歩行は前方を見据え、より直立した姿勢で歩行していた。これは残存視力を活用して足元の情報を収集する視野狭窄歩行に対し、低視力歩行と全盲歩行では足圧感覚による情報収集をより重視していることが示唆された。今後は、視覚障害者の歩行実験およびまたぎ動作実験を実施する。
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