研究課題/領域番号 |
15K16414
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
安 啓一 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 感覚機能系障害研究部, 流動研究員 (70407352)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 吃音 / 聴覚フィードバック / 開ループ / 制御工学 / 白質 / 弓状束 / 角回 / デフォルトモードネットワーク |
研究実績の概要 |
吃音があると発話に困難が伴うが、その原因の一つとして発話と聴覚のフィードバック(帰還)制御に異常があることが知られている。現在導入している実験方法としては、発話者の母音の音響的特徴を反映した合成音を使った音声の帰還がかからない開ループ方式(当研究にて開発)を使用しいてる。昨年度に引き続き、母音の第1共鳴周波数をステップ状に変化させたものを聞かせることによって得られる発話応答を分析した。ステップ応答を微分し、インパルス応答を求める手法によって早い潜時においては補償応答(変化と逆の方向)、遅い潜時では追従応答(変化と同じ方向)が得られた。昨年度よりも参加人数を増やし、よりデータ数を増やしたところ母音の第1共鳴周波数が安定せずに、全体的に上昇もしくは下降するケースが見られた。そのため、個人の発話の特性と変調に対する応答とを区別する解析手法が求められた。検討の結果、正弦波をフィッティングすることによって応答が切り分けられたため、今までの得られたデータにも追加して分析手法を適応した。 脳機能構造測定では、昨年度に引き続き、脳の白質(神経繊維)の接続を測定する拡散テンソル画像法や、安静時の脳活動測定から得られた脳の機能的接続(デフォルトモードネットワーク)の測定を行い、データ収集を進めた。その結果、吃音がある場合では白質の接続度合いを示す異方化率が、左の弓状束・角回・弁蓋部にて低下するという結果が得られた。得られた知見を、北米神経学会及び日本吃音・流暢性障害学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
音声発話時の聴覚フィードバック(帰還)を測定する実験では、参加者人数を増やしたところ、当初の分析では問題にならなかった、個人の発話の特徴が多く現れるようになり、変調に対する応答との区別が難しくなった。そのため、新たな分析方法を検討し、正弦波による応答のフィッティングを適応したところ、変調に対する応答が参加者を問わず得られるようになった。データ収集は続けていたが、分析方法の検討に時間を要したため業績の発表が遅れ気味だが、論文は継続して執筆している。 脳機能構造測定においては必要なデータの収集が終わり、脳の白質(角回)の神経接続が吃音者にて低下することが示された。学会発表を2件行っており、概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
開ループによる変換聴覚フィードバック(帰還)に関するデータの収集はほぼ終了し、分析と業績発表に専念する予定である。追加の実験が必要になった場合には適宜行うこととする。新たな分析方法を導入したことにより、研究に若干の遅れが見られるが、今後も現在実行中の分析を続け、原著論文をはじめとする成果発表を目標とすることとする。 脳機能実験脳機能測定は必要なデータの収集は終わり、脳の白質(主に角回)の接続低下が見られた部位が特定できてできている。こちらも原著論文等の成果発表を行うことを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では実験の解析のための人件費・謝金を想定していたが、新しい分析方法の検討に時間がかかり、研究代表者自ら分析を進めたことにより、依頼するまでに至らなかったため。また、海外のでの成果発表が2回あり、旅費の支出が増えたことによって十分な人件費が確保できないと予想されたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度までに、分析方法が確立したため、分析を依頼するための人件費による支出を計画している。もし人件費が不要になった場合には、成果発表のための費用や解析のための計算機購入に充てることとする。
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