吃音の原因の一つとして発話と聴覚のフィードバック(帰還)制御に異常があることが知られている。実験方法として、本研究で開発した発話者の母音の音響的特徴を反映した合成音を使った音声の帰還がかからない開ループ方式を使用している。この手法は、母音の第1共鳴周波数をステップ状に変化させたものを聞かせることによって得られる発話応答を分析するものである。ステップ応答を微分し、インパルス応答を求める手法によって早い潜時においては補償応答(変化と逆の方向)、遅い潜時では追従応答(変化と同じ方向)が得られた。母音の第1共鳴周波数が安定せずに、全体的に上昇もしくは下降するケースが見られたが、新たに正弦波をフィッティングする処理を加えたところ応答が切り分けられたため分析が進んだ。脳機能構造測定では、平成29年度に引き続き、脳の白質(神経繊維)の接続を測定する拡散テンソル画像法や、安静時の脳活動測定から得られた脳の機能的接続(デフォルトモードネットワーク)の測定を行い、データ収集を進めた。その結果、吃音がある場合では白質の接続度合いを示す異方化率が、左の弓状束・角回・弁蓋部にて低下するという結果が得られた。さらに、白質のトラクトグラフィ(神経経路)の分析を行い、右半球の白質神経接続についても吃音の有無で差があることが明らかになった。デフォルトモードネットワークの分析も進めている。得られた知見を、吃音・クラタリング世界合同会議で発表する。これらの結果を国際学会や原著論文等の成果発表を行う。
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