研究課題
睡眠は、睡眠段階と呼ばれる複数の状態が遷移を繰り返す動的で複雑な現象である。本研究は、睡眠段階の遷移現象に焦点を当て、睡眠の動的制御機序の一端を解明することを目的とする。平成27年度の主な成果は以下の3点にまとめられる。1)若年健常者17名を対象とし、睡眠動態の個人差についての検討を行った。通常の睡眠を記録する基準夜及び24時間断眠後の睡眠を記録する回復夜で構成された全8夜のデータを用いて、各睡眠段階遷移の生起回数の級内相関係数を計算して評価した。その結果、睡眠段階遷移の級内相関係数は、一晩当たり平均3回以上遷移が起こるような遷移パターンについては全て有意なものであり、睡眠段階遷移動態の個人差はtrait-like(安定かつ頑健)であることが示唆された。2)上述のデータについて、基準夜と回復夜の睡眠段階遷移の動態を比較した。その結果、回復夜では基準夜と比較して、総遷移回数及び覚醒と浅睡眠間の遷移回数が有意に減少した一方で、NREM2とREM睡眠間の遷移回数が有意に増加した。若年健常成人においては、断眠による睡眠圧の増加は、浅睡眠と深睡眠間の遷移構造には影響を及ぼすレベルではないことが示唆された。NREM-REM間の遷移構造への影響については今後詳細に検討していく予定である。3)若年健常者18名及び高齢健常者13名を対象とし、加齢による睡眠圧の変化が睡眠の動的構造に及ぼす影響について検討した。その結果、高齢者は若年者と比較して、深睡眠(NREM3)の連続性が有意に低下していることが明らかになった。このとき、NREM1, NREM2, REM睡眠の連続性には群間に有意な差は見られなかった。このことから、加齢による睡眠圧の変化は浅睡眠と深睡眠間の遷移に関連している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、ヒトの睡眠段階遷移動態にはtrait-like(安定かつ頑健)な個人差があること、加齢による睡眠圧の変化が浅睡眠-深睡眠間の遷移動態に影響を与える可能性があることが明らかになった。
当初の予定通り、平成28年度は脳波の分析を進める予定である。具体的には、睡眠の動的制御機序の背後に存在すると考えられる複数の脳内振動子の性質を、各遷移に関連する脳波の特徴を抽出することで明らかにする。同時に、睡眠動態と内分泌データの関連についての解析を進め、ヒトの睡眠の動的制御に関わる脳内機序の一端を解明することを目指す。得られた成果は適宜学会や学術雑誌にて報告する。
当初の予定では実験補助者への謝金支出を予定していたが、平成27年度は研究代表者と共同研究グループにより研究を遂行することが可能になったため、謝金支出の必要がなくなった。次年度使用額が生じたのはこれに起因する部分が大きい。
実験補助者への謝金、計算機シミュレータの購入、論文投稿及び掲載料、国際学会及び国内学会出席のための旅費等に使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)