平成29年度は計画を一部縮小し、バイオリンの指板を押さえる位置の測定実験を熟達者と未熟達者に限定して実施した。実験結果から押弦位置の正確さ(運動の記憶)について熟練度および聴覚情報の有無との関連について考察した。 具体的には、両群においてターゲットとなる3つの音について実際に演奏音を聞きながら押弦を行った際と、演奏音を聞かずに押弦を行った際での位置について距離を算出し、群内における演奏音の有無と、群間に差がみられるか検討を行った。その結果、演奏音ありの場合に比べて演奏音無しでの押弦では、熟練者・未熟練者両群で有意にバラつきが大きくなることが明らかになった。バラつきの大きさについては、ターゲットとなる音が高い(=押弦の位置が遠くなる)ほど、より大きくなることが明らかになった。さらに熟達者に比べて未熟達者群がより大きくバラつくことが明らかになった。一方、演奏音ありでの課題においては、両群に有意な差は認められないことが明らかになった。また、追加実験としてターゲットとなる音を押弦する前に、異なる音を押弦した状態から課題を行ったところ、両群においてバラつきが有意に小さくなることが明らかになった。 これらの結果から、バイオリニストは熟練によって聴覚情報がない状態でもより正確にターゲットとなる音の高さに押弦できること、押弦の正確さには先行する音の高さを手がかりとしている可能性が示唆された。 本研究の目的である聴覚ー運動モデルの解明について今回の結果は、長年の演奏経験がより強固なモデル獲得につながっていることを示していると考えられる。また、ターゲットとなる音の直前の音が押弦の正確性に影響していることから、バイオリニストは直前の音を頼りに常に押弦位置の更新を行っていることも示唆された。 本研究の成果は今後国内外の学会での発表および論文投稿への準備を行っている。
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