研究課題/領域番号 |
15K16425
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
村上 祐介 筑波大学, 体育系, 特任助教 (70744522)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 運動発達 / 課題指向型アプローチ / 運動有能感 / 個人差 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、運動発達クリニックに参加する子どもの中から本研究の対象児を選定し、運動発達のアセスメント及び運動指導を行った。運動発達クリニックには小学校や中学校、特別支援学校に通うDCD児が所属しており、本研究で対象となったのは3名であった。それぞれ、対象児Aは小学校に通う5年生男児、対象児Bは小学校に通う6年生男児、対象児Cは中学校に通う3年生男児であった。各対象児は、保護者からの聞き取りや運動遊び場面の観察から身体的不器用さが確認されており、運動発達のアセスメント(Movement-ABC2,Hendrson et al.,2007)を実施した結果、全ての対象児において平均よりも低い成績が示されていた。また、自己認知のアセスメントとして行った運動有能感に関するアンケート(Harter,1982;岡沢ら,1996)では、対象児Bと対象児Cについては有能さが相対的に低い結果となった。対象児Aは心理的影響からアンケートを実施することが難しかったため、普段の様子や運動発達クリニック内での活動の様子をもとに分析することとした。実際、運動を行うことに対する自信の低さが顕著であり、運動有能感の低さが認められていた。 以上のような対象児に対して、課題指向型アプローチによる運動指導を実践した。指導内容は、それぞれの対象児の興味関心に合わせたものであり、具体的には、ボールを使った的当てやショートテニスなどの簡易なスポーツ活動である。運動指導を通して、身体的不器用さそのものの変化には個人差があり、変化する部分としない部分が見られるが、活動への参加態度や言動には共通した変化が見られた。具体的には、自ら進んで新しい課題に挑戦したり、自発的に活動に参加するなどである。これらの行動の変化から、運動への多様な関わりを通して、運動有能感の高まりが見られたと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、まず4月の時点で本研究における対象児を選定し、運動指導前のアセスメントを実施することができた。なお、対象児の中には本研究の開始以前から運動発達クリニックに参加している者も存在しており、それらの経緯を踏まえた上で本研究を遂行していくことで、より長期的で価値ある研究の成果を得ることができるとあらかじめ考えることができた。そして、5月以降、運動指導を継続して実施し、目標としていた10回の指導を実施することができた。計画していた運動面のアセスメントはすべての対象児に実施できたが、心理面のアセスメントは実施できない対象児が存在した。その理由として、対象児への心理面への影響が考えられた。具体的には、本研究に参加する前から運動への苦手さや自信の低さが対象児には認められていたため、本人から直接それらの気持ちを聞き出すことに心理的な問題が生じる可能性が考えられることが分かった。そこで、活動への参加態度や保護者からの聞き取りを中心に、心理的な対象児の変化を長期的に観察していくこととした。運動指導については、ボールを使った的当てやショートテニスなど、様々な運動に取り組むことができた。それらの活動を通して、対象児の運動面と心理面の両方において変化が期待でき、次年度への計画につなげることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度に実施した運動指導の指導前と指導後の対象児の変化についてまとめ、その成果の発表を行う。特に、ここまで実施してきた運動指導の経過から、運動指導を通した個人の変化には全ての対象児に共通した点が認められる。例えば、ボール投げを要する運動課題を継続的に行ってきたことから、投動作の発達的な高次化が認められている。また、活動の中で自ら進んで新しい課題に挑戦したり、自発的に活動に参加するなど、心理的側面を反映する様々な行動の変化が認められている。一方、個人差の大きさも実感している。DCD児への課題指向型アプローチの先行研究では、個人差を鑑み、個々に設定した指導内容と対象児ごとの運動面及び心理面の変化の様子が分析されている(Rodger and Brandenburg,2009;Kluwe et al.,2012)。本研究においても、個々に設定した指導内容と対象児の特性の関連性を分析し、指導内容のどの要素が対象児のどの特性に適合していたのかを明らかにしたい。そのために、個々の対象児の運動面と心理面の質的な変化を詳細に記述し、指導の有効性について検討する。 以上について、平成28年度に開催される日本体育学会や日本アダプテッド体育・スポーツ学会、特殊教育学会などにおいて発表を行う。また、体育学研究やアダプテッド・スポーツ科学などの学術雑誌に実践研究として投稿し、本研究の成果を広く発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費について、当初予定していたフランスのトゥールーズで行われた第11回国際DCD学会(11th INTERNATIONAL CONFERENCE ON DEVELOPMENTAL COORDINATION DISORDER)での情報収集を行うことができず、国内における学会への参加のみとなり、次年度使用額が生じた。また、運動指導に伴う謝金についても、当初研究で対象とした子どもが途中で終了する事態が発生するなど、運動指導に関わる謝金が予定よりも少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の成果の発表及び新たな情報収集のため、7月に北海道教育大学で開催される「“アダプテッド/医療/障害者”体育・スポーツ合同コングレスin北海道」や、8月に大阪体育大学で開催される「日本体育学会第67回大会」、新潟で開催される「日本特殊教育学会第54回大会」への出張旅費の一部にあてる。また、平成28年度から所属機関が変わったため、平成27年度に所属していた筑波大学へ複数回出向き、本研究の遂行に関わっている大学教員や大学院生と研究の成果に関する打ち合わせを行うため、その旅費としてあてることとする。
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