研究1,2年目の課題から,成人被験者はランダム条件の方が到達地点方向へ頭部を変位させていたが,幼児では統制条件の方が頭部を変位させており,頭部の変位が捕捉行為の正確性に貢献している可能性が示唆された.これらの知見を踏まえ,本年度は誘導刺激の呈示が捕捉行為に与える影響を明らかにすることを目的とし,研究1,2年目の応用を試みた.被験者は統制条件と誘導刺激条件に割り当てられた.標準刺激課題において,被験者はスクリーン正面に立ち,ターゲットの移動後に自身も移動を開始し,到達地点にてターゲットの到達と自身の移動完了を一致させることを求められた.この課題に加え,移動するターゲットと到達地点の間に誘導刺激が呈示される誘導刺激課題が設けられた.誘導刺激課題では被験者は課題遂行中,点灯する誘導刺激を視認することを求められた.全ての被験者の試行数は12試行であり,統制条件では標準刺激課題のみを行った.誘導刺激条件は最初と最後の2試行が標準刺激課題,残りの8試行は誘導刺激課題であった.被験者は月齢60ヶ月を基準として低年齢児群と高年齢児群に分けられた.また,ターゲットが高速で移動する条件と低速で移動する条件を設けた.捕捉行為の正確性の指標として,反応の正確性,ターゲットとの協調度,頭部が向かう方位角(HDA)を用いた.主な結果として,低年齢児群の低速条件では,統制条件よりも誘導刺激条件でターゲットとの協調度の改善が見られた.また,HDAは誘導刺激条件において変動性が減少した.以上から,誘導刺激が低年齢児群の捕捉行為の遂行に貢献する可能性が示唆された.ただし,反応の正確性には差がなかったことから,本研究で用いた誘導刺激の効果は,反応の正確性というよりは捕捉行為の安定性にのみ有効であることが考えられる.また,その他の条件に顕著な差が見られなかった点について,今後より詳細な検討が求められる.
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