研究課題/領域番号 |
15K16442
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
洪 性賛 筑波大学, スポーツR&Dコア, 研究員 (10638547)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PIV / サッカーボール |
研究実績の概要 |
近年,スポーツにおける流体力学的研究が最先端のトピックの一つになっている.特に,ボールスポーツでは数年おきにボール表面の形が変化した新球が発表されており,選手が新球にどのように対応できるかがパフォーマンスを左右する重要な要因となっている.このような選手パフォーマンスに直接的,間接的に関与する流体工学的研究・開発は各国において優先度の高い課題の一つである.さらに,ボール表面の形(パネル数及びその向きなど)によってその飛翔軌道が変わると報告されており,ボールの流体力学的メカニズムの解明がプレーヤーパフォーマンス向上に寄与する蓋然性は高い. 平成27年度は,実験風洞とPIV(Particle Image Velocimetry)計測システムを用いて,サッカーボール表面近傍の空気の流れ(境界層)を可視化し,パネルの形が空気の流れを変えるメカニズムを検討した. 先行研究により,パネルの枚数・形状・向きにより,ボールに加わる空気力(飛行する物体が空気から受ける力)が変わり,ボールの飛翔軌道に大きな影響を与えることが示唆されていた.しかし,サッカーボールのパネルの形が異なることによって,空気の流れがどのように変わるのかは不明のままであった.平成27年度の研究では,サッカーボール表面(縫い目近傍)における空気の流れを,PIV手法を用いて可視化し,縫い目近傍の流れ場の動態と空力特性について検討した.その結果,サッカーボール表面を構成している縫い目の位置が,境界層の剥離点に大きな影響を与え,サッカーボールの飛翔軌道を決定する大きな要因の一つになっていることが分かった.今回得られた研究結果は,サッカーボールの飛翔特性の理解,新たなボールの研究・開発やデザインに活用できるものと期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究において,私の研究では,現時点で使用されているさまざまな種類のサッカー公式球を対象に風洞実験を行い,ボールに加わる空力特性を,パネル数およびパネルの向きに着目して比較検討した(Hong & Asai, 2014).その結果,パネルの枚数・形状・向きにより,ボールに加わる空気力が異なり,ボールの飛翔軌道に大きな影響を与えることが明らかになった.しかし,サッカーボールのパネルの形が異なることによって,どのように空気の流れが変わるのかは不明のままであった.そのため,平成27年度の研究では,2013年FIFAコンフェデレーションズカップの公式球であるカフサを用いて,パネルの向きが抗力,揚力に及ぼす影響を検討すると共に,ボール縫い目の位置変化から生じる空気の流れの変化をPIVで可視化し,ボール縫い目の位置が,空気の流れを変えるメカニズムや,実際のサッカーボール飛翔軌跡への影響を明らかにした(hong et al., 2015). その結果,サッカーボールの表面にある縫い目は境界層の剥離を促すものの,その位置によっては再付着が生起し,結果的に剥離点を後方へ移動させる働きがあることが明らかになった(剥離点の位置が,120度から145度に大きく変化した例を含む).この剥離点の位置の変化は,ボール後方の空気の流れ(後流)の渦構造に影響を及ぼすと共に,揚力,抗力に作用し,飛翔するボールの軌道に影響を与えていることが分かった.現在までの研究結果を総合すると,サッカーボール表面を構成している縫い目の位置が,境界層の剥離点に大きな影響を与え,サッカーボールの飛翔軌道を決定する大きな原因の一つになっているという結果を得られた.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究では,サッカーボール縫い目の位置変化から生じる空気の流れの変化をPIVで可視化し,ボール縫い目の位置が,空気の流れを変えるメカニズムや,実際のサッカーボール飛翔軌跡への影響を明らかにした.しかし,最近のサッカーワールドカップの公式球は,ボールを構成するパネルの数やボール表面の形などのデザインが大きく変化しており,従来のサッカーボール(五角形と六角形の32枚)とその模様が大きく変わった.また,異なるパネルの数やその向きによってボールに加える空気力が変わって飛翔軌道も変わると報告されている.しかし,サッカーボールの表面形状は,様々な形のボールパネルや縫い目が複雑に組み合わされており,それらのボール表面形状が,サッカーボールの空力に与える影響は,ほとんど不明である.そのため,28年度の研究では,異なるパネル数と表面のデザイン(ディンプル有無と突起の模様など)で構成された10個のサッカーボールを製作し,その空力特性を風洞実験で検討する.実験の方法としては,同様な材料(革)を用いて,パネルとパネルの間を糸(縫い目)で製作されたサッカーボールを対象として実験を行う.製作するサッカーボールは,32枚パネルのサッカーボールと12枚のパネル構成されたサッカーボール及び6枚のパネル構成されたサッカーボールの3種類で,各々サッカーボールにはディンプル有りのタイプとディンプル無しのタイプの2つタイプを作り,総6種類のサッカーボールを対象としてパネル数及びディンプル有無が空力特性に及ぼす影響について,風洞実験を用いて計測し,その特性を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年3月の計画していた山形大学でのPIV実験が,PIV計測装置の改良のため平成28年5月以降に変更することとなったから.
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次年度使用額の使用計画 |
山形大学にある風洞施設を用いたPIV実験を行うための旅費のために使用する.
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