研究課題/領域番号 |
15K16450
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤井 翔太 大阪大学, 未来戦略機構, 助教 (80738964)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スポーツ史 / フットボール / イングランド / プロフェッショナリズム / ガバナンス |
研究実績の概要 |
本研究は、①1980年代から1990年代におけるガバナンスの変化、②プロ・フットボール選手の自己/他者イメージの形成と変化に着目しながら、20世紀イングランドにおけるプロ・フットボールのガバナンスの歴史について考察することを目的とする。 ①については、1992年のプレミアリーグ設立に向けた議論を整理した。特に、P.J.Sloanら同時代の研究者によるプロ・スポーツに関する議論、2度のスタジアム事故をきっかけとするサポーター組織の変容を中心に分析を行ない、これまでの研究で扱ってきた1960年代までの改革と異なる点を明らかにした。具体的には、リーグ内部で一部の富裕なクラブの発言権が高まった一方で、政府やサポーターなど外部のステークホルダーが積極的にガバナンスに関与するようになったことがそれ以前の時代とは異なっており、この2点がプレミアリーグの設立に繋がる要因として重要であった。 ②については世紀転換期から戦間期にかけてフットボール・リーグの理事を務めたチャールズ・サトクリフの言説分析を行ない、20世紀前半におけるプロフェッショナリズムの理念について整理した。サトクリフの理想とするプロフェッショナリズムは、クラブやリーグによるプロ選手の管理・統制を必要だとする一方で、リーグ全体の安定的な運営を実現することでより多くのプロ選手・クラブの利益を守ることが優先されていた。また、メディアを積極的に利用し、プロ・フットボールの社会的な重要性を世間に訴える点もサトクリフの特徴である。こうしたサトクリフの理念は選手側の求める権利を侵害する部分もあったが、20世紀後半におけるスター選手出現の土台となるリーグの発展を支えたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は先行研究の整理を行なった上で、イギリスにおける史料収集を行ない、研究計画の基盤を整えることができた。 史料調査については、平成28年1月にイギリスの大英図書館、およびDe Montfort Universityを訪問し、スタジアム事故に関する政府委員会の報告書などの一次史料を収集した。あわせて、 De Montfort UniversityのMatthew Taylor教授と今後の研究の方向性について議論を行った。 また、研究界における報告、書籍への論考の寄稿も積極的に行なった。まず、1980年代から1990年代におけるガバナンスの変化については、ファン・マネジメントの変化という観点から平成27年4月24日に早稲田大学スポーツナレッジ研究会で報告を行なうとともに、同研究会が出版する書籍『ファン・マネジメント』に論考を執筆した(平成28年度初頭出版予定)。一方でプロ・フットボール選手のイメージに関しては、チャールズ・サトクリフの理念について『異端者たちのイギリス史』(平成28年4月出版)に論文を寄稿した。 学会での報告、論文の執筆については細かい部分で当初の計画と異なる部分もあるが、概ね当初の研究計画通りの成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は1980年代から1990年代のガバナンスの変化についての成果を学会報告や論文の形で公表しつつ、プロ・フットボール選手の自己/他者イメージに関するさらに踏み込んだ分析を行なう。 前者については、平成28年12月に開催予定の日本スポーツ史学会大会で口頭報告を行なうともに、査読誌『スポーツ史研究』への投稿を予定している。その上で、当初の計画よりは一年遅れることになるが、平成29年度にBritish Society for Sports History Conferenceでの口頭報告、The International Journal of History of Sports誌への論文投稿準備を進める。 後者に関しては定量的分析に本格的に取りかかる予定である。具体的には、世紀転換期から戦後期のメディア、選手の自伝・伝記などの史料を利用したテキストマイニング分析を実施し、プロフェッショナリズム概念の歴史的変遷について考察する。 史料調査については、引き続きイギリスを訪問し、平成27年度に収集の出来なかったメディア史料、サポーター組織の機関誌などの収集を行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2回予定していたイギリス調査(大英図書館史料調査、De Montfort University訪問)を1回にまとめて行なったため、旅費が当初予定額よりも5万円ほど少なくなった。また、物品費として史料収集にかかる費用を予算としてあげていたが、インターネットでの公開されている史料が多く、また、海外調査時にデジタルカメラを利用して史料の複写を行うことが可能であったため、5万円ほど予算よりも使用額が少なくなった。以上をあわせて約10万円の残額が生じたが、今年度に追加の書籍を購入するよりも、次年度に行なう分析に必要なテキストマイニングソフトの購入に充てる方が有益と判断したため、次年度使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の約10万円に関しては、次年度の物品費と併せてテキストマイニング分析に必要なソフト(IBM SPSS Text Analytics for Surveys)の購入に充てる。本ソフトを使用する事で、プロ・フットボール選手の自己/他者イメージの定量的な分析をよりスムーズに行う事が可能になるだろう。
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