当該年度は、2017年8月にブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」とする)リオデジャネイロ州において、現地調査をおこなった。カポエイラ世界競技大会ならびに講習会の参与観察を通じて、カポエイラの組手における駆け引きの発生を中心に動画資料を収集した。その資料を基に、組手における一連の動きを、蹴りやよけ等の既存の「技」と「ジンガ(基本的な足運び)」に分節化し、カポエイラの組手の文脈に沿って「ジンガ」の機能を検討した。その結果、身体技法「ジンガ」は、次の技に備える、よける、調子を整える、カモフラージュする等のために機能しており、そのリズミカルな動き方ゆえに、カポエイラの組手において、重要理念「マリーシア(機転が利くという意味)」を伴う駆け引きの誘発に有効であると考察された。前年度において明らかにされたカポエイラの組手における駆け引きで出現する複数の戦術パターンに加え、身体技法「ジンガ」を伴うことによって「マリーシア」のある組手が具現化される。また、映像資料ならびに文献研究から、こうした「マリーシアのあるジンガ」は、カポエイラのみならず、ブラジルサッカーにおいても重要な精神的・身体的スキルとしてみなされ、ブラジルサッカーの特徴の一つとされる。このように、地域的な民族スポーツが、当該地域における国際的競技スポーツのプレースタイルへも影響を与え、固有性形成の一助となっている現状が明らかになった。
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