2017年度は、まず2016年度までの研究遂行過程において重要な事例と位置づけられた「全日本トライアスロン皆生大会」(「皆生」)を対象とした追加調査を実施した。これまでと同様に大会の様子をデジタルビデオカメラで撮影したほか、日本初のトライアスロン大会となった第1回から「皆生」の運営に携わっている競技役員へのインタビュー、「皆生」の歴史に関する資料収集を行った。 また2016度に引き続き、トライアスリートへのインタビュー調査を実施した。2017年度のインタビューでは、本研究が調査対象とした大会に出場していた選手のほかに、応援者、現在はトライアスロンから離れている「皆生」出場経験者なども対象に含めた。結果として、エンデュランススポーツにおける消尽と歓待の体験について考察するための複層的なデータが得られた。 上記の調査結果を含む研究成果の公表について、「西日本スポーツ社会学会第23回大会」(2017年度より旧研究会と通算回数を統合)と「日本スポーツ社会学会第27回大会学生企画シンポジウム」において報告を行った。さらには「皆生」の事例を扱った論稿がまとまり、修正作業を経て2018年度中に公開する目処が立った。 研究成果の一部について簡約すると、「皆生」にはいくつかの理由で現在も競技化が徹底されていない、競技とその外部との境界が曖昧な部分がある。このことによって、「皆生」の様々な場所で、例えばコースに入り込んでの応援や非公式な形での選手への支援のような、長時間の苦痛で「へろへろ」になった(=消尽)弱い存在としての選手と弱い存在を支えようとする(=歓待)人々の関係が生じうる。「皆生」における近代スポーツとしての不徹底さや曖昧さは、今後の市民スポーツのあり方を考えるうえでも非常に示唆的な知見だと考えられる。
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