昨年度の実施状況報告書に記載した計画の通り、平成30年度は陸上競技短距離および野球以外の競技(陸上競技跳躍、サッカー、バスケットボール、ラグビー、ソフトボール、ビーチフラッグス)を専門とする男子大学生アスリート計19名を対象とした実験を実施した。 実験内容は、昨年と同様に、疾走速度曲線の評価(レーザー式速度測定器)、形態計測(体組成、四肢長、身体各部位周径囲)、筋力測定(膝関節伸展・屈曲筋力、股関節伸展・屈曲筋力)、および疾走動作分析(光学式モーションキャプチャシステム、床反力計)とした。得られた疾走速度データならびに先行研究の速度曲線モデルを用いて、各被験者の加速能力が最高疾走速度に対して相対的にどれだけ優れているのかを表す指数(加速指数)を算出し、その他の評価項目との相関分析を行った。 分析の結果、加速が優れている選手ほど、1.下腿部に対して大腿部の周径囲が大きい、2.身体のより前方で接地し、長い時間で地面をキックする、3.キック脚の股関節を広い可動範囲で動かし、かつ股関節の仕事量が大きい、といった結果が認められた。これまで、疾走の高速疾走局面は股関節を中心としたスイング動作が有利であり、加速局面は下肢三関節を同時に伸展するピストン系動作が有利であるとされてきた。一方、本実験の結果は、加速能力が高い者ほど加速局面の早い段階で股関節を中心としたスイング系の動きに移行していたことを示唆するものであり、上述の見解とは相反している。また、股関節および膝関節の筋力測定結果と加速指数との間には有意な相関関係が認められなかった。すなわち、本研究の疾走動作分析で得られた知見は、疾走動作の加速局面における股関節伸展動作の重要性を示唆するものであった一方、筋力測定で得られた知見はそれを支持する結果とはならなかった。
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