平成28年度は、平成27年度に有用性を検証した泳動作中の抵抗力測定法を用い、身体に障がいを有する競泳選手の泳動作中の抵抗力を測定した。測定は強化合宿中に実施し、パラリンピック日本代表選手5名を含む8名の選手が参加した。平成27年度の検証実験において、バタフライや平泳ぎのように泳速度の変動が大きな泳法の抵抗力を正確に測定できないことが明らかになったことから、全ての測定参加者のクロール泳中の抵抗力の変動を評価した。その結果、身体的に健常な泳者を対象とした先行研究と同様に、ストローク周期中の抵抗力の変動や左右の非対称性を定量的に評価することができた。本研究にて計測されたストローク動作1周期中の平均抵抗力は56.0 Nから151.5 Nであり、健常な競泳選手を対象とした先行研究(185.2 Nから335.1 N)と比較して小さな値を示した。このような抵抗力の差は,対象とした泳者の泳速度や身体の大きさを反映したものと考えられ、推進力や発揮パワーが健常エリート選手と比較して小さいことを示している。また、抵抗力の変動は、リカバリー局面後半からグライド局面後半に抵抗力が増加する現象が見られ、手部が入水する動作が大きな抵抗になっていることが明らかとなった。特に、障がいによる制限を受けない側での手部の入水が大きな抵抗を生んでいる泳者が多く見受けられ、障がいによって推進力を得られないことが、反対側の身体のリカバリー動作における抵抗力の増大に関与することが示唆された。これらの測定により得られた情報は、抵抗力のデータと同期された泳動作の映像とともに各選手の指導者にフィードバックを行った。
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