前年度で骨化性筋炎の起こるメカニズムについてはおおよそ明らかにできた。その予防や治療といった介入において、骨化巣の大きさや成熟度は有効性の唯一の指標となるが、後者はともかく前者は組織学的には困難である。そこで当初はレントゲンを用いた定性的大きさを指標とする予定であったが、解像度の問題から困難であった。このため、microCTを用い、同じ動物を繰り返し撮像することによりその大きさや成熟度の経時的変化を明らかにした。 組織学的には誘導後2週では幼若な類骨組織であったが、CTでは不均一な石灰化像として認められ、3週以降、外郭の皮質骨様部分と、中心部の海面骨様部分が認められ、成熟によるゾーン現象、髄腔形成と考えられた。過去の骨化性筋炎モデルでは骨化巣は2-3週以降、8週まで変化がなかったと報告している(Liu et al. 2014)。本モデルでも石灰化量自体は3-4週でプラトーに達していたが、興味深いことに外郭部分で区切られる腫瘤の体積は縮小傾向にあり、中心部の海面骨様部分の骨梁の退縮、骨量低下が見られた。 骨はメカニカルストレスが加わることでその維持が保たれる組織である。周囲が横紋筋で囲まれる長幹骨骨幹部は、小さい横断面で大きい荷重を支えるべく皮質骨が発達し、関節面で広く荷重を支える必要のある骨端は海綿骨が発達する。骨化巣は正常筋に囲まれるため骨幹部と同等の環境にあると考えられるが、荷重支持に関与しないため皮質骨は発達しない。海綿骨も退縮するため、周囲正常筋の収縮による圧力に骨化巣は抗することができず、リモデリングしながら徐々に退縮していくと思われる。 臨床的にも骨化性筋炎の自然消失は知られており、その機序が明らかになったと考える。さらに、本知見を通じて、成熟度の判断にも応用できる可能性がある。
|