研究課題/領域番号 |
15K16489
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
古市 泰郎 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 助教 (40733035)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 骨格筋 / 筋収縮 / アセチルカルニチン / 質量分析イメージング / マイオカイン / 分泌調節 |
研究実績の概要 |
カルニチンは脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ役割を担う一方で、筋細胞内の悪性脂質であるアセチルCoAと結合してアセチルカルニチンと呼ばれる物質を生成することによって、それを無毒化している。これまで申請者は、骨格筋収縮はアセチルカルニチンの生成を増大させることを見出しているが、筋収縮時のカルニチン動態、特にカルニチンの排出機構については明らかにされていない。アセチルカルニチンは骨格筋以外の臓器に作用し、様々な健康効果を生み出すことから、骨格筋は筋収縮時にはアセチルカルニチンを作って悪性脂質を減らすに留まらず、善玉であるアセチルカルニチンを血液を介して他の臓器に送っている可能性が考えられる。平成27年度は、培養骨格筋細胞C2C12を電気的に収縮させて筋収縮をトリガーとしたアセチルカルニチンの排出調節の明らかにすることを試みた。まずは筋収縮調節性マイオカインとして知られるIL-6を指標に、筋収縮によって分泌が調節される実験条件を検討した。電気刺激のパルス幅と電流値、培養液の種類をあらゆる条件で検証した結果、IL-6が一時間の収縮で分泌促進される条件を見出した。一方、in vivoにおける骨格筋カルニチン動態を明らかにするために、質量分析イメージングによってマウス骨格筋組織の内因性アセチルカルニチンの分布を同定した。坐骨神経を電気刺激してin situ収縮させたところ、筋収縮でアセチルカルニチンが増加していること、またその部位はPAS染色によって同定したグリコーゲンの減少部位と一致することが示された。さらに、安定同位体で標識したカルニチン(d3-carnitine)を静脈から投与し、その生体内分布を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成27年度内に骨格筋組織および培養細胞を用いた実験系で筋収縮によるアセチルカルニチンの分泌調節を検証する予定であった。しかし、筋収縮によって分泌促進されると言われるIL-6が我々の培養収縮モデルでは分泌調節されなかったため、予定を変更してまずはその実験条件の確立を行った。現在はこの実験条件でアセチルカルニチンの排出量の変化を検証している。一方、次年度に行う予定であった質量分析イメージングのin vivo実験を、先に繰り上げて実施することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、これまで確立した培養細胞の筋収縮条件によってアセチルカルニチンの分泌調節を検証する。ただし、我々の予備実験によって骨格筋培養細胞株C2C12ではカルニチントランスポーター(OCTN2)の発現量が骨格筋組織に比べて著しく少ないことが明らかとなった。C2C12でカルニチン輸送が検出できない場合は、マウス骨格筋から初代培養細胞を得ることを計画している。初代細胞は細胞株に比べて生体組織の性質を維持していると考えられ、実際に初代細胞由来の筋管細胞はOCTN2の発現がC2C12よりも高かった。我々は初代細胞での筋収縮モデルを確立することにも成功している。骨格筋におけるアセチルカルニチンの排出機構を明らかにするため、阻害剤を用いた薬理実験やトランスポーターの機能をコントロールした遺伝子工学的な実験を行う。
|