2017年度は、筋弛緩動作が同肢内の他筋に及ぼす影響を、筋活動および大脳皮質脊髄路興奮性の点から明らかにすることを目的とした。これまでの我々の研究より、足関節筋の弛緩動作により、手関節筋の筋活動や皮質脊髄路の興奮性が低下することが明らかになっている。しかしながら筋弛緩が同肢内他筋に及ぼす影響は明らかになっていない。本研究では、上肢を対象に、肩関節筋の弛緩が、手指筋、手関節筋および肘関節筋の持続収縮力に及ぼす影響を明らかにした(実験1)。また、経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて、肩関節筋の弛緩を行う際の手指筋および手関節筋を支配する皮質脊髄路興奮性を明らかにした(実験2)。実験1:被験者(12名)は、手指筋、手関節筋および肘関節筋の持続収縮を行い、その収縮を保ったまま音刺激に素早く反応し、肩関節筋の持続収縮からの弛緩を行った。その結果、全ての筋において、肩関節筋を弛緩する際に持続収縮力が低下することが明らかになった。実験2:被験者(12名)は、音刺激に素早く反応して肩関節筋の持続収縮から弛緩を行い、その際、TMSを安静状態の手指筋および手関節筋支配領域に刺激した。その結果、肩関節筋弛緩時には、一様に皮質脊髄路興奮性が低下することが明らかになったが、肩関節筋の安静時よりは高い水準であった。また対照実験として、肩関節筋を様々な強度で持続収縮する際の指関節筋および手関節筋の皮質脊髄路興奮性を明らかにした。その結果、TMS刺激時の肩関節筋の活動が同程度であっても、徐々に筋活動が低下する弛緩時の方が、持続収縮時よりも指関節筋および手関節筋の皮質脊髄路興奮性が低下することが明らかになった。 これらの結果より、ある筋の弛緩は、同肢内他筋に抑制性の影響を及ぼすことが明らかになった。
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