研究課題/領域番号 |
15K16496
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藤本 雅大 立命館大学, スポーツ健康科学部, 助教 (10732919)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 姿勢制御 / 高齢者 / 動作分析 |
研究実績の概要 |
歩行などの動作中に予期せぬ外乱が加わった際に,姿勢を安定に保ち転倒を防ぐには,視覚による外乱の認識と,それに応じた四肢の運動計画の反射的かつ適切な調整が必要となる.高齢者では,このような外乱に対する「反応能力」と「姿勢制御能力」が低下する事で,転倒に至ると推測される.本年度は,若年者と高齢者において,ステップ動作中の予期せぬ視覚ターゲットの移動(外乱)に対する「反応時間」と「姿勢の安定性」とを評価した. 実験では,健常な若年者,高齢者および転倒経験のある高齢者を対象とし,視覚ターゲットに対するステップ動作を要求した.ステップ動作開始時に,ランダムで左右方向にターゲットが移動し,ターゲットに対して素早く正確にステップを行う事を被験者に要求した.視覚ターゲットは被験者前方に設置した超短焦点プロジェクタを用いて床面に投影し,3次元モーションキャプチャ装置により身体動作の運動学データを,足元のフォースプレートにより動作中の床反力を計測した. 実験の結果,健常な若年者および高齢者においては,視覚ターゲットの移動に対する下肢の軌道修正の開始時間に大きな差は見られないのに対し,転倒経験のある高齢者では遅れが見られ,ステップに要する時間も長かった.姿勢の安定性は,ステップ動作開始時において若年者,高齢者,高齢転倒者の順に高かった.下肢の軌道修正の開始時には,若年者は姿勢が不安定であるのに対し,高齢者および高齢転倒者は姿勢が安定していた.とりわけ,高齢転倒者が最も安定した姿勢で動作を行っていた.視覚ターゲットに対するステップの正確性においても,高齢者および高齢転倒者が若年者に比べて高い結果となった. 以上の結果より,若年者は動作の安定性と正確性を犠牲にした,素早い動作を実行するのに対し,バランス機能の低下した高齢者では動作の安定性および正確性を重視した,より保守的な動作方略をとる事が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,若年者と高齢者において,ステップ動作中の予期せぬ視覚ターゲットの移動に対する反応能力と姿勢制御能力とを評価することが目的であった.視覚ターゲットの投影には超短焦点プロジェクタを用い,フォースプレートにより計測した床反力からステップ開始の瞬間を特定し視覚ターゲットを移動させた.しかし,実際のステップ開始の瞬間から視覚ターゲットの移動までの時間遅れをハイスピードカメラを用いて計測した結果,100~200ms程度の遅れが生じている事が判明した.それは,プロジェクタのリフレッシュレート,データ収録デバイス,そしてWindows上で動作するプログラムに起因していた.現在は,プロジェクタの代わりにLEDレーザーモジュール,そして時間に確定的なコントロールを可能にするFPGAモジュールが搭載された計測用ハードウェアを導入する事で,上記時間遅れを劇的に低減し,マイクロ秒オーダーでのリアルタイム制御が可能となっている.しかしながら,これらのトラブルシューティングに時間を要した結果,十分な数の被験者において実験を実施する事ができなかった.その代わり,次年度使用予定の実験機器を含めた,研究設備の基礎はほぼ完成しており,次年度の実験と本年度の実験を並行して実施する事で,本年度の被験者の不足分を補う事を予定している.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って,視覚ターゲットの移動に対する反応制御に関する研究を継続する.今後は,下肢によるステップ動作を,手すりあり・なしの条件で実施する事により,ステップ動作時のバランス制約が視覚運動制御に及ぼす影響について検討する.また,上肢による到達把持動作時の視覚ターゲットの移動に対する反応制御も検討する事で,上肢と下肢の視覚運動制御機構の違いについても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験機器のトラブルシューティングに時間を要した結果,十分な数の被験者において実験を実施する事ができなかった.そのため,当初予算に計上していた研究謝金と差異が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
実験機器の改良のための材料費と加工・工作費,そして被験者への謝金として使用する.
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