研究実績の概要 |
一過性の全身持久性運動に先駆けて,運動肢に対して,短時間の虚血-再灌流を複数回繰り返す虚血プレコンディショニング(以下 IPC)を施行することにより,全身性運動持久能が増加することが明らかにされている.しかしながら,このような効果を成立させる生理的・分子的基盤に関しては未だ不明である.本研究は,IPCが血管内皮型一酸化窒素合成(NO)酵素(eNOS)由来のNOの産生を高めることで骨格筋ミトコンドリア機能を活性化して有酸素運動能力が増加するという一連の効果基盤を解明することを目的としている. これまでの成果として,IPCによる全身性運動持久能の増加が骨格筋酸素化動態の促進に関連する可能性を示唆した(Kido, Suga et al. Physiol Rep, 2015).さらに,IPCの効果が骨格筋よりもむしろ心臓の適応を介して生じている可能性が少なからず想定されるため,局所持久性運動におけるIPCの効果を検証した.その結果,局所持久性運動によっても骨格筋脱酸素化動態の促進が認められ,運動持久能が増加することを明らかにした(Tanaka et al. Int J Sports Med, in press).したがって,IPCによる全身性運動持久能の増加の基礎基盤は,骨格筋機能が高まることに関連することが強く示唆された.現在,この骨格筋機能の増加がミトコンドリア機能の活性化に関連していることを明らかにするため,近赤外分光法を用いたin vivo骨格筋ミトコンドリア機能測定によって,IPCが骨格筋ミトコンドリア機能の活性化を生じるかについて検証している.また,実験動物を用いて,IPCによって骨格筋ミトコンドリア機能関連タンパクの発現が増加するかについて検証も行っている.
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