研究実績の概要 |
これまでに一過性の全身持久性運動に先駆けて,運動肢に短時間の虚血-再灌流を複数回繰り返す虚血プレコンディショニング(以下 IPC)を施行することにより,全身性ならびに局所筋持久能が増加することが明らかにしてきた(Kido, Suga et al. Physiol Rep 3, 2015; Tanaka, Suga et al. Int J Sports Med 37, 2016).また,IPCを施行することにより,運動中の骨格筋酸素化動態が促進されることから,IPC誘発性の持久能の増加は,骨格筋ミトコンドリア機能の活性化に関連する可能性を示唆した. 本年度は,さらに非運動肢にIPCを施行する遠隔IPC(RIPC:例えば下肢の運動の場合,上肢に施行)が全身性持久能におよぼす効果を検討した結果,IPCと同様にRIPCによっても全身性持久能が増加することを明らかにした(Kido, Suga et al. in review).しかしながら,RIPCを施行した場合は,IPCを施行した場合に認められた骨格筋酸素化動態の促進でなく,全身性の酸素消費動態の促進が認められた.さらに,局所筋持久能におよぼすRIPCの効果を検討した結果,RIPCを施行しても運動持続時間の増加および骨格筋酸素化動態の促進が認められなかった(投稿準備中).したがって,全身性持久能におよぼすIPCとRIPCの有益な効果は,異なる生理的機序によって生じる可能性が示唆された.また,RIPCは,筋持久能の増加に有効ではない可能性が示唆されたことをふまえると,長期介入によって骨格筋ミトコンドリア機能を高めるためには,RIPCよりもIPCが有効である可能性が推察された.
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