本申請はスプリント運動時に生じる下行性指令の “神経活動増幅”技術を開発し、スプリントパフォーマンスの向上及び新たなトレーニング方法の開発を目指している。本年度は前年度の結果を受けて、パフォーマンスの改善効果が得られやすい刺激部位-運動様態関係の探索を行った。 ①皮質DCSが短時間スプリントに及ぼす影響:中枢性疲労が生じるとの報告がある運動皮質に対してDCSを与え、8秒程度の短時間スプリントパフォーマンスへ及ぼす影響について検討を行った。下肢の筋群を支配する運動野を標的として、頭頂部へDCSを行った。短時間スプリントサイクリングの発揮パワーを刺激の有無、及び刺激極性間で比較すると、何れの条件においてもパフォーマンスの向上を引き起こすことが出来なかった。 ②皮質DCSが持久性に及ぼす影響:皮質DCSのスプリントパフォーマンスを向上させることが出来なかった。この原因として、皮質DCSにより興奮性修飾を受ける神経回路網がスプリント運動の中枢性疲労に関与していない、あるいは刺激強度や時間が不十分で、運動野の興奮性を十分に引き起こすことが出来ていない可能性があった。そこで、皮質DCSの効果を持久性運動によってテストすることで、これらの問題の原因を検討した。被験者は60 rpm又は80rpmを出来る限り維持する定常回転持続サイクリング課題を行った。60rpmの場合、負荷は0.06kp/kg of body weight(BW)からスタートし、5分後から3分毎に0.5kpの漸増負荷とした。80rpmの場合、負荷は0.075kp/kg of BWとした。何れの条件においても頭頂部を陽極としたDCS後に、サイクリング持続時間の向上が生じた。これらの結果は、皮質DCSの影響下にある神経回路網が中枢性疲労に及ぼす効果は運動様態依存的である可能性を支持する結果であった。
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