研究課題/領域番号 |
15K16501
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
本多 賢彦 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (10455545)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋線維タイプ / 運動 / 転写コファクター |
研究実績の概要 |
持久性運動の刺激は、骨格筋に、遅筋型ミオシン重鎖の増加および速筋型ミオシン重鎖の減少や、酸化的代謝能力の賦活化などの質的変化(遅筋化)を促すため、運動療法は生活習慣病や循環器疾患の予防・改善法として広く普及している。しかしながら、それを制御する分子機構の詳細は不明な点が多い。転写コファクターであるVgll2を欠損するマウスの骨格筋が、平常時において速筋化しているという予備的解析をもとに、本研究では、Vgll2が持久性運動に伴う遅筋化に関与するかを明らかにし、さらに遺伝子発現から機能発現までのどの時点で修飾を受けてそれを制御するのかを明らかにすることを目的とする。 本年度は、ランニングホイールを用いた自発運動試験と、足底筋への代償性過負荷を目的とした協働筋切除手術を採用し、Vgll2欠損マウスにおける遅筋化の程度の検討を行った。自発運動試験においては、10週齢から試験を開始して、8週間のトレーニング後、種々の骨格筋を採取して運動群と安静群のミオシン重鎖発現パターンをウエスタンブロッティングによって比較したところ、野生型マウス足底筋においてミオシン重鎖発現パターンが遅筋化していることを確認した。これに対し、Vgll2欠損マウスでは明確な変化は認められなかった。 代償性過負荷試験については、ヒラメ筋をおよび腓腹筋を完全切除する手術を10週齢マウス各個体の両脚に施し、6週間後のミオシン重鎖発現パターンを比較したところ、野生型手術群は同偽手術群と比較して明確に遅筋化していたが、欠損マウスではこのような変化は認められなかった。 以上の実験は各群2個体ずつで行ったものであり更なる検証が必要ではあるが、二つの試験で同傾向の結果が得られていることから、Vgll2の運動に伴う遅筋化への関与を示唆するに十分な結果であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、Vgll2が運動に伴う遅筋化に関与するのではないかという仮説に基づき、これを検証するために計画されたものである。本年度は、これを検証するための運動試験として適切な方法を選定するために条件検討を行った。自発運動試験では足底筋を解析対象とすることで遅筋化の評価ができることを確認した。さらに野生型マウスでは自発運動の結果、遅筋化が起こるのに対し、Vgll2欠損マウス足底筋では明確な変化が認められず、仮説を支持する結果が得られた。しかしながら、この方法では、各動物の運動量を一定に制御できないという懸念が生じたため、第二の方法として協働筋切除の検討を行った。技術習得には時間を要したが、現在では技術的に安定し、野生型マウス足底筋の遅筋化を観察した。この方法においても、Vgll2欠損マウスでは遅筋化が観察されなかった。それぞれの実験方法において条件検討に時間を要したため、十分な例数試行できていないが、どちらの方法からも仮説を支持する結果を得ており、所期の目標を達成できる状況にあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に検討した方法のうち、協働筋切除手術の方がより顕著な遅筋化を生じることが判明したことから、次年度からはこの方法を用いて計画を遂行する予定である。10週齢の野生型およびVgll2欠損マウスの両脚に手術を施し、6週間後のミオシン重鎖発現パターンをウエスタンブロッティング、qPCR、組織学的解析などの方法より、各ジェノタイプについて偽手術群と比較し、Vgll2欠損マウスにおける遅筋化の程度が、野生型マウスに比べて抑制されていることを明らかにする。さらに、遅筋化に際してVgll2の遺伝子発現から機能発現までのどの時点で修飾を受けてそれを制御するのかについても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験条件の確立や技術習得に時間を要したこともあり、本実験の試行回数が伸びなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き計画の遂行に取り組む。実験方法としては協働筋切除手術を主として採用する。この解析に必要となる抗体や試薬、キット類および手術器具の買い増しに使用する。
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