研究課題/領域番号 |
15K16502
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 善樹 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (80595504)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん検診 / 受診率向上 / ヘルスキャンペーン / 効果測定 / 行動科学モデル / 地域介入 |
研究実績の概要 |
<1.コミュニケーションによって制御可能な健康行動の決定要因のレビュー> 本研究では検診受診行動に着目し、行動決定要因としてHealth Belief Modelに基づく自己効力感、罹患性、重大性、利益、障害の5つを取り上げ、どの要因が最も行動と関連しているかに関して文献レビューを行い、適格基準を満たした16論文から得られた効果量に基づきメタ回帰分析による評価を行った。 最も大きな発見は、メタ回帰分析の結果、心理要因としての「障害の除去」が受診率向上に効果的な可能性を示したことである。受診率向上に関連する要因についてなされたメタ回帰分析はこれまで存在せず、同領域における知見を提供すると考えられる。先行研究より、受診率向上についてcall-recallという手段の効果が報告されており、本研究の結果はcall-recallを実施する上でのメッセージ内容に示唆を与えると考えられる。28年度以降は、27年度に得られた結果に基づく実際の地域介入を行い、結果を評価する。
<2.メッセージ戦略策定にかかる方法論の理論化> 健康行動を制御する5つの要因について、ヘルスキャンペーンで変容させた場合、集団レベルでどのような行動変容が期待できるか、効果推定するための統計手法を開発した。具体的には、Hornikら(Hornik & Woolf, 1999)の手法に対し、誤差の分布を明らかにして信頼区間を推定した上で、各要因の有無が受診行動あるいは受診意図に与える因果効果を傾向スコアによるIPTW(Inverse Probability of treatment weighted)法により推定した。事前に得られた大腸がん検診に関する住民調査データ(受診行動、および心理変数の測定を含む)により解析を行った結果、「検査は不快だ」「時間がかかりすぎる」といった意識を変容させることで受診行動を最も促進するキャンペーン効果が得られることが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
28年度以降は、27年度に得られた知見に基づき、受診率向上に向けたヘルスキャンペーンの企画、および実施・評価を行う。フィールドとなる東京都の住民約1,000 人を対象とし、健康行動の各決定要因について、リッカートスケールなどを用いて質問紙調査を行う。次に、得られた回答について、27年度に本研究において開発された統計手法に基づき、キャンペーンで焦点をあてるべき決定要因を抽出する。最後に、抽出された決定要因に影響を与えると考えられるメッセージ(パンフレット)を、マスメディア広告を専門とするデザイナー等と共に開発する。具体的には以下を想定。 ① 研究対象地域の選定:本研究に対し許可及び協力を得られる地域を対象とする。なお、本研究は、各自治体が通常実施している保健事業の一環として行われるものであり、対象地域の決定は、研究者と各自治体との交渉によるものとする。 ②研究対象者の例数設計:コントロール群の受診率が30%, 介入群の受診率を40%と想定した時、有意水準5%のYates の連続修正を行ったχ二乗検定で95%の検出力を確保する場合、必要な例数は各群609 名である。本研究では約20%の予期せぬドロップアウトを想定し、各群750 名を目標例数とする。 ③対象者の割り付け:各自治体の住民基本台帳を用い、研究対象者を抽出する。なお、住民基本台帳の使用は、取り扱いを許可された各自治体の担当者が行う。研究対象者は、各自治体の担当者が、介入群と対照群に無作為に割り付ける。介入群には、開発される受診勧奨メッセージを送付する。受診勧奨メッセージ及び再受診勧奨メッセージは、各自治体の特定健診担当部署より、対象となった地域住民の自宅へ送付される。対照群には格別の介入を行わないが、各自治体が従来行っている広報紙、ポスター、区のHP等による特定健診受診のお知らせに触れる機会がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度以降に行う介入について、必要な調査・介入を実施するにあたり想定される費用に対して使用するため。
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次年度使用額の使用計画 |
介入資材を作成するにあたり、質問紙調査およびパンフレットデザインのために使用する。
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