国民全体の健康リスクを低減させるポピュレーション戦略としてヘルスキャンペーンがあるが、莫大な費用がかけられているにもかかわらず、必ずしも効果的・効率的な戦略策定が行われているわけではない。そこで本研究は、国家規模のヘルスキャンペーン戦略の策定に関して、科学的かつシステマティックな方法論の開発を目的とした。また具体的な事例として、低迷する我が国のがん検診受診率を題材とし、がん検診の受診促進キャンペーンの中核をなすメッセージ戦略について検討を行った。 まず平成27年度は、コミュニケーションによって変容が可能な、健康行動の決定要因について、行動科学に基づき体系的な整理を行った。次に、特定されたそれぞれの決定要因について、キャンペーンにより変容させた場合どれだけの行動変容が期待できるか、効果推定するための統計モデルを開発した(Nishiuchi et al. 2016)。平成28年度は、ヘルスキャンペーンの戦略的枠組みの構築を行った。平成29年度は大腸がん検診を題材としてインターネット調査を行い、日本人の場合に特にどの要因がキャンペーンのメッセージ戦略の対象となりうるか検証を行った。 平成30年度は、キャンペーンのトーン/マナーを決定するうえで重要となる「情動」について、大腸がん検診の受診意図とどれほど関連を持つのか検証を行った。その結果、ポジティブな情動については受診意図と関連がみられたものの、ネガティブな情動についてはそのような関連が見られなかった。よって大腸がん検診の受診を促すには、ネガティブな情動をあおるのではなく、ポジティブな情動を喚起するようなメッセージが有効であると推察された。 以上に挙げた一連の研究を通じて、本研究では国家規模での健康増進・疾病予防のためのポピュレーション・アプローチの一つとして、戦略的にヘルスキャンペーンを構築する方法論を整理した。
|