研究課題/領域番号 |
15K16515
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中西 香織 大阪大学, 保健センター, 助教 (10650872)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 喫煙 / 老化 / 代謝異常 / 炎症 |
研究実績の概要 |
喫煙は悪性新生物、肺疾患、心血管疾患などの加齢性疾患の発症に関わり、また老化促進の原因の1つでもある。しかし、喫煙による老化促進の機序についての詳細はまだ不明である。老化遺伝子クロトー関連分子と喫煙との関係性を調べることで喫煙習慣による老化促進の機序について検討を加えた。αクロトーは老化遺伝子として知られており、遺伝子変異マウスは早老症状を示すことが報告されている。昨年度は、血清中のαクロトーとクロトー関連分子で代謝異常を示すマーカーとしても注目されている線維芽細胞増殖因子(FGF)-21の喫煙による動態変化について検討を行った。 基礎疾患のない中年世代男性(46.1±5.1歳)の喫煙者・非喫煙者を対象とし、身体計測や各種サイトカイン・増殖因子群の測定を含めた血液検査を実施、両群間の比較を行ったところ、喫煙者ではFGF-21、αクロトー、インターロイキン(IL)-6が非喫煙者に比べ有意に高値であった。 FGF-21は代謝異常関連サイトカインであるアディポネクチンと負の相関を持ち、喫煙者でのみ肝機能、コレステロール値と正の相関を示していた。喫煙は代謝異常を進めることが知られているが、喫煙者におけるFGF-21上昇は代謝異常促進を予見している可能性が示唆された。 さらに高齢の群(60.3±1.7歳)でも検討を行ったところ、高齢者群でも喫煙者の血清αクロトー値は非喫煙者と比較して有意に上昇していた。中年世代の非喫煙者でαクロトーは炎症関連サイトカインであるIL-6と正の相関を示し、αクロトーがIL-6を制御している可能性が示唆された。しかし、喫煙者や高齢者群ではこの相関関係は崩れていた。 今回の研究により、喫煙がαクロトー、FGF-21を同時に上昇させ、αクロトーは炎症に、そしてFGF-21は代謝に影響を与え、老化促進に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
喫煙で老化がすすむメカニズムとして従来から、酸化ストレス・代謝の異常と慢性炎症の関与が指摘されている。今回、喫煙が同時にクロトー関連分子であるαクロトーとFGF-21を上昇させることを初めて見出した。また、αクロトーはIL-6と作用することで炎症に、そしてFGF-21はアディポネクチンに作用することで代謝異常に、それぞれ関連することも示唆された。喫煙による老化という現象に対して、クロトー関連分子はこれら2つの面から関与している可能性が考えられた。 今回の結果より喫煙による加齢性疾患の発症や老化促進の予防に対して新しい見解が期待されると考えられる。また、その他の予定もほぼ順調に達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は男性を対象として検討を行った。性差による比較がまだなされていないため、今後は男性だけではなく女性を対象としても同様の結果が得られるかどうかを検討していく。また、生活習慣の変化によってこれらのクロトー関連分子が変化するかも確認していきたい。
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