本研究では,肥満型2型糖尿病における骨格筋インスリン刺激性糖取り込み障害の改善を目的に,血管機能と血管構造の破綻を治療ターゲットとした抗酸化物質アスタキサンチンの効果及び作用メカニズムを検証した.検証の結果,アスタキサンチンは肥満型2型糖尿病に伴う骨格筋微小血管障害を抑制することを明らかにした.共焦点レーザー顕微鏡を用いた3次元構造解析,及び組織切片を用いたAlkaline phosphatase染色の結果から,肥満型2型糖尿病の発症に伴い,微小血管の容積・直径,さらに赤血球が通過可能である2.5μm以上の機能的毛細血管割合が減少した.一方で,アスタキサンチンの摂取がそれらの微小血管障害を抑制することを明らかにした.また,組織切片を用いたSDH染色,及びCS活性の結果から,肥満型2型糖尿病モデルラットへのアスタキサンチン投与はミトコンドリア代謝を活性化することを明らかにした. アスタキサンチンの作用メカニズム検証を目的に実施した糖尿病モデルラットによる検証では,アスタキサンチンが糖尿病に伴う筋萎縮や微小血管障害を抑制することを明らかにし,その作用機序としてBaxの発現抑制を介したアポトーシスの抑制が関与していることを確認した.Baxは酸化ストレスにより誘導され,ミトコンドリア障害を介したアポトーシスを促すタンパク質である.糖尿病では活性酸素種の産生に伴う酸化ストレス,及び高血糖曝露による血管内皮細胞アポトーシスが微小血管障害を引き起こすと言われている.本研究で認めたアスタキサンチンによる微小血管障害抑制機序には,アスタキサンチンが,酸化ストレス及び高血糖曝露によるミトコンドリア障害や血管内皮細胞アポトーシスを抑制したことが考えられる.一方で,糖取り込み障害の改善効果については,非肥満型糖尿病モデルでは血糖コントロールが可能であったが,肥満型については効果が限定的であった.
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