研究実績の概要 |
視覚情報への注意は、脳内の情報処理に影響を及ぼすとされている。しかし、一点を注視した状態で別の課題を負荷することが、初期の視覚情報処理へ影響を及ぼすかどうかの報告は少なく、加齢や認知機能低下による脳内基盤もわかっていない。平成29・30年度とでは高齢者を対象にし、注意分散が視覚情報処理に及ぼす影響を検討した。対象は、健常高齢者群9名(男性4名、女性5名、平均年齢73歳)と軽度認知症者群8名(男性2名、女性6名、平均年齢75歳)。対象者は極端な視力低下や視野欠損などの視覚機能に障害がなく、過去に同様の実験に参加したことのない者とした。刺激条件として、眼前114cmの位置から左もしくは右視野へ白黒格子縞パターン反転刺激を4Hzの刺激頻度で提示し、被検者が固視点を注視してもらいながら一桁の暗算を行った時あるいは行わなかった時の定常状態型視覚誘発電位(steady - state visual evoked potentials;S - VEPs)を頭皮上の20極部位より記録した。サンプリング周波数は1,000Hz、低域遮断周波数0.53Hz、高域遮断周波数120Hzの条件とした。加算回数は100回。解析として、オフライン上で加算波形を高速フーリエ変換させ、位相とパワー値を算出した。結果、健常高齢者の後頭部の第2調和成分のパワー値は、暗算によって上昇をし、軽度認知障害者では低下を示した。また、2群間には有意な差があった。このことより、暗算と視覚情報処理とを同時に遂行すると、健常高齢者は選択的に視覚機能を高める一方、軽度認知障害者は双方に干渉を引き起こして低下したと推察する。つまり、初期の視覚情報処理は暗算負荷によって影響を受けるが、健常高齢者と軽度認知障害者とで異なる反応特性をもつ可能性がある。
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