研究実績の概要 |
(目的)糖尿病や動脈硬化発症の予防・治療において、運動量に加え運動強度の重要性が認識されつつある。運動強度の違いが骨格筋代謝反応にどのような違いを与えるかについて不明な点が多い。本研究では得られたヒトの骨格筋生検サンプルをリピドーム解析し適切な運動強度とそれを裏付けるメカニズムを明らかとする。 (方法)同意が取得された被験者を登録し、消費エネルギーを同一にした(300kcal)低強度運動群(40%VO2max)と、高強度運動群(70%VO2max)にランダムに分け、5日間連続で運動を行う。その前後で生理学的な測定及び、骨格筋生検を行う。1H-MRS法による前脛骨筋、ヒラメ筋における細胞内脂質の定量、MRIによる腹腔内脂肪・皮下脂肪量の定量を行う。その後大腿四頭筋外側広筋での筋生検及び脂肪生検を行う。その後、安定同位体[6,6-2H2]glucoseを用いた高インスリン正常血糖クランプ検査(インスリン注入速度20mU/m2/min)により、肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性を判定する。また大腿外側広筋における骨格筋生検を行い、そのサンプルから骨格筋リピドーム解析を行った。 (研究業績)全被験者20名の骨格筋インスリン感受性は、両群共に介入前に比較して改善を認めた一方で、骨格筋細胞内脂質は低強度運動群はでほとんど変化を認めなかったのに対し、高強度運動群では介入前に比べ介入後には1.5倍以上の有意な増加を認めた。 また骨格筋サンプルを用いたリピドーム解析により、低強度運動群ではホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、セラミドの変化を認めた。高強度運動群ではホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールでの変化を認めた。介入する運動強度により蓄積される骨格筋細胞内脂質成分・質量は異なる特徴的変化を示すことが示された。
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