遺伝性拡張型心筋症(DCM)は、慢性心不全(CHF)の原因疾患の一つであり、左心室の拡大と収縮能低下を特徴とする心筋症で、約50%が遺伝子変異を伴う家族性である。さらに家族性DCMでは30~40%に心室性の致死性不整脈による突然死が報告されている。CHFでは病態が進行する過程において、交感神経系、レニン-アンギオテンシン系、サイトカイン等が活性化し、収縮力低下を代償しようとする(代償期)が、やがて心拍出量が低下し、肺うっ血等の心不全症状が現れる(非代償期)。既に、CHFのガイドラインでも運動療法が取り上げられており、うっ血の改善、心血管系の改善、副交感神経系の活性化などを介した効果であると言われている。しかし、DCMではCHFの重症化や致死性不整脈による突然死が多く、患者を対象にした運動療法の検討は危険を伴うため効果が明らかでない。研究者は、森本らにより作出されたヒト家族性DCMに似た特徴をもつモデルマウス(以下DCMマウス)を用いて、DCMにおける運動療法の効果を検討してきた。DCMマウスを用い若年より頻回(毎日~2日毎)の自発的運動を行ったところ、明らかな寿命延長効果が認められた。また、自発運動と強制運動とでは心機能に与える影響の質が異なることを2017年度に報告した。今年度は、若年から毎日自発運動を行ったDCMマウス群と2日毎に自発運動を行った群において、組織および細胞での比較や、分子レベルでの比較を試みた。これらより、DCMにおいても適切な運動が症状改善に有効であり、より頻繁な自発運動の方が細胞レベルでの心機能保護に効果があること、また、イオンチャネルのリモデリングの進行も抑制される傾向があることが明らかになった。
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