研究課題/領域番号 |
15K16524
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
井内 勝哉 日本医科大学, 先端医学研究所, 助教 (40553847)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子状水素 / 脂質過酸化 / 酸化ストレス / 生体分子 / 炎症 |
研究実績の概要 |
初年度の研究では、分子状水素が生体膜の脂質過酸化を制御することによって炎症を抑制することが明らかになった。特に、生体膜脂質の不飽和脂肪酸に分子状水素が作用し、細胞内におけるシグナル伝達を調節して炎症を抑制することが明らかになった。 この初年度の結果をもとに28年度は、生体分子として不飽和脂肪酸に着目し、分子状水素との関係性について検討した。さらに、不飽和脂肪酸の自動酸化によって産生される酸化型脂肪酸の生理活性についても検討した。特に、酸化型脂肪酸の細胞死誘導活性やLipopolysaccharide(LPS)で誘導したマクロファージの炎症に対する影響について検討した。 その結果、不飽和脂肪酸を自動酸化することによって、マウスマクロファージ様細胞であるRaw264.7細胞に対して、抗炎症作用や細胞死誘導活性を持つことが明らかとなった。一方、自動酸化させる前の脂肪酸には、それらの効果が確認できなかった。この結果は、脂肪酸の自動酸化(非酵素的な反応)によって、様々な生理活性を有する物質が産生されることを意味する。また、酸化型脂肪酸の性質として、低濃度で炎症性サイトカインや一酸化窒素(NO)産生などの炎症反応を抑えることが明らかになった。一方、高濃度の酸化型脂肪酸は、アポトーシス細胞死誘導活性を有することが確かめられた。酸化型脂肪酸の濃度によって、細胞に対する生理作用が異なった。これらの結果より、生体内においても細胞膜の酸化度合いにより、誘導されるシグナル伝達が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により、細胞膜やミトコンドリアなどの生体膜に存在する不飽和脂肪酸が自動酸化することによって、細胞死を誘導する活性や抗炎症作用を有することが明らかになった。この結果は、生体膜の脂質過酸化によって産生される酸化型脂肪酸の中に、細胞死のシステムや免疫機能に対して作用する物質が含まれていることを意味し、大変興味深い。このように、今後発展が期待できる結果が得られたことより、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞膜やミトコンドリアに含まれる生体膜が活性酸素などの酸化ストレスに暴露された場合に、どのような種類の酸化型脂肪酸が産生されるか網羅的に解析する。また、その中で細胞死を誘導する酸化型脂肪酸の種類や、免疫システムに作用する酸化型脂肪酸を同定する。さらに、酸化型脂肪酸によって誘導される細胞死メカニズムや、免疫システム制御メカニズムについての解析も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に、炎症に関与すると予想していたタンパク質の化学的修飾の解析や、実験用小動物に関する実験が少なかったため、そこで使用予定であった助成金を翌年度に使用することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度、28年度の研究結果により、分子状水素が炎症を制御する際に関与する生体分子として生体膜が同定された。よって、脂質の解析に使用する予定である。
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