近年、食生活由来の生活習慣病は摂取する脂肪の“量”ではなく“質”がより強く関係しているという報告がなされている。摂取する脂肪酸の“質”が肥満に関与する原因の1つはエネルギー代謝の変化である。具体的には、飽和脂肪酸と比較し一価不飽和脂肪酸の摂取は食後の脂質酸化量を増大させる。エネルギー代謝と睡眠は多くの分子内機構を共有しているため、本研究では異なる脂肪酸組成の食事摂取後のエネルギー代謝と睡眠構造を評価することで、生活習慣病のリスク低減に有効な脂肪摂取のエビデンスを確立することを最終目的とした。 健康な若年男性を対象に2つの実験を行なった。実験1: 「特定の脂肪酸を摂取させるための試験食」として、高パルミチン酸食(HPAD: high palmitic acid diet)および高オレイン酸食(HOAD: high oleic acid diet)を開発した。この試験食を摂取することでエネルギー代謝が変化し、HPAD群と比較しHOAD群において24時間の脂質酸化量が優位に増大した。実験2:実験1で作成した試験食を朝、昼、夕に摂取させ、HPADまたはHOADの摂取がエネルギー代謝と睡眠構造に与える影響を検討した。HPAD群と比較しHOAD群では、24時間の脂質酸化量が有意に増大した。また、HPAD群と比較しHOAD群において、深部体温は夕食後から入眠数時間後まで低値を示し、入眠後最初に出現する第一周期の深睡眠出現時間が有意に増加することを確認した。これらの結果は、食事の脂肪酸組成の差異がエネルギー代謝を変化させ、分子内機構を共有している深部体温の日内変動も変化させる。加えて、睡眠構造の変化をも引き起こす可能性を示唆した初めての報告である。
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