本研究の目的は、酸化ストレスが鉄代謝調節機構に与える影響を明らかにし、加齢に伴って引き起こされる鉄代謝異常の病態メカニズムを解明することである。これまでに研究代表者は、「脂質過酸化物4-HNE(4-hydroxy-2-nonenal)が鉄代謝調節因子IRP1(Iron regulatory protein 1)を強力に不活化する」という実験結果を得ている。この知見を基盤として、本研究では、「脂質過酸化物がIRP1を不活化するメカニズム」と「脂質過酸化物が鉄代謝に与える影響」の解析を行った。平成27年度には、脂質過酸化物の増加を引き起こす原因となる酸化ストレス(スーパーオキシド、過酸化水素、脂質過酸化物など)が、細胞内の鉄代謝に与える影響を解析した。その結果、細胞内における酸化ストレス亢進状態は、IRP1を顕著に減少させること、IRP1によって調節を受けている鉄代謝関連分子(フェリチンやトランスフェリン受容体など)の発現量にも影響を与えていることが明らかとなった。平成28年度には、酸化ストレスがIRP1の翻訳後修飾や機能に与える影響について解析を行った。これらの研究成果は、学術集会(第40回日本鉄バイオサイエンス学会学術集会)で発表した。現在は、論文作成中であり、海外学術誌への投稿を予定している。また、酸化ストレス亢進状態のモデルマウスであるSOD1(Superoxide dismutase 1: Cu/Zn-SOD、細胞質型SOD)ノックアウトマウスを使った実験により、生体における酸化ストレスの亢進状態が、脳内の遷移金属代謝に影響を与えること、行動学的異常の原因となる可能性があることを見出し、学術集会(第69回日本酸化ストレス学会学術集会)での発表と、海外学術誌(Free Radical Research)への投稿を行った。
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