本研究では、疲労調節因子が、原因不明の強い全身疲労倦怠感など長期間に渡り継続する慢性疲労症候群に類似な、動物の疲労行動を制御しているのかを決定することを目指した。今年度は、疲労調節因子遺伝子の1つであるHIF-1αを対象に、その遺伝子断片を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのプラスミドを設計し、DNAクローニングなどによって目的のAAVベクターを得た。そのAAVベクターを用いて各臓器に恒常的に遺伝子発現させたモデル動物の作製を検討しており、さらに、疲労行動、代謝異常、および組織炎症との関係性を明確にする実験も行っており、それらとの関係性も分かりつつある。また、本研究の派生的なテーマとして、疲労調節因子の活性化などを惹起する、疲労負荷による組織微細形態に与える影響を調査するために、疲労負荷動物の肝組織において、その微細構造の変化を最新型の走査型電子顕微鏡技術により網羅的に調べる試みも実施した。この取り組みでは、「組織微細構造情報の総体(モルフォーム)」を通して、疲労病態を網羅的に理解することを目指した。また、このような網羅的な組織科学的手法によって画像ビッグデータを取得する方法論は、生命科学分野において「モルフォミクス(Morphomics)」と言われ、新たなオミックス研究領域の1つとなりつつある。今回、得られた組織微細構造の画像ビッグデータを詳細に解析することで、ミトコンドリアの変形などを含む、疲労時特有の様々な形態学的な変化が確認された。さらに、微細構造画像データに対して、実験条件や表現型データなどを記述することが可能なオントロジー(共通語彙)を提案し、モルフォミクス解析によって得られた画像データを公開・共有・検索するプラットホームの構築が達成されつつある。
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