研究課題/領域番号 |
15K16538
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
梅野 彩 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 産総研特別研究員 (20749098)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一重項酸素 / 緑内障 / ヒドロキシリノール酸 / 10ZE-HODE / 12ZE-HODE / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒドロキシリノール酸(HODEs)異性体を用いて、眼疾患のなかでも重篤な緑内障の進行に伴う酸化ストレスの関与を科学的に解明し、緑内障早期診断・予後診断へ応用することを目的とする。HODEsは脂質酸化生成物で、ラジカル酸化、一重項酸化、酵素酸化により特異的に生成する6種の異性体がある。一重項酸素は好中球のほか紫外線により発生することから、光暴露が多い眼疾患への関与が示唆されている。そこで、緑内障疾患者の血清、眼組織を用いて、一重項酸素が酸化されて特異的に生成する10-,12-(Z,E)‐HODEをはじめとするHODEs異性体の測定および解析を進めている。 我々が独自に開発した脂質酸化物測定法を用いて、白内障、緑内障を含む患者530名について、血清中のHODE異性体と他の脂質酸化生成物を測定した。落屑緑内障を除いた320名を対象に、得られた数種の酸化生成物データと病期データを用いて、統計解析を行ったところ、高眼圧の被験者ほど、HODE異性体の一つが高値を示していた。以上のことから「高眼圧と酸化ストレス」の関与が示唆された。 一方、前房水中の脂質酸化生成物測定は非常に低濃度であり、独自に開発した測定法では困難であることがわかった。そこで、測定法の適正化を行うために、まず、とりわけ低濃度である、イソプロスタグランジンF2αの検出に注目した。LC-MS/MSの測定条件検討の結果、前房水中の脂質酸化生成物の検出に成功した。さらに高精度な検出をめざし、LC-MS/MSに用いるサンプルの前処理法の検討を行い、これまでの1.5倍の感度を達成した。現在、イソプロスタグランジンF2αを含めたHODEs, HETEs,の高感度測定を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緑内障、白内障、その他の眼疾患者の血漿530名について、脂質酸化ストレスマーカー(HODEs HETEs)に加えて、総リノール酸、総アラキドン酸、総コレステロールの測定を終えた(計画を上回るマーカー数)。得られたデータと病期データを照合し、眼疾患と酸化ストレスの関係性を検討した結果、高眼圧と酸化ストレスの関係性を明らかすることができた。 一方、初年度に見出した前房水の測定法は、文献検索により、さらに改良の可能性を見出した。しかし、検討に時間を要しており、測定法の確立まで到達できていない。 ただし、来年度の計画事項である「酸化ストレスマーカーと様々な臨床データを複合することによるリスク予測アルゴリズムの検討」に取り掛かっており、全体の進行には影響ないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
血清データ、病期データを用いた緑内障と酸化ストレスの関連性を解明し、論文化を進める。 前房水の測定法を確立し、血清データと前房水データを比較することで、酸化ストレスによる疾病発症機構を明らかにする。 さらに、かなり挑戦的ではあるが、脂肪酸分析、光学異性体特異性も検討しメカニズム解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に、昨年度に測定したデータの解析に費やしたため、試薬やカラムの使用が少なかった。また、測定装置メンテナンスに必要な物品はすでにストックしている消耗品から使用しようできた。論文投稿は投稿費がかからない雑誌へアクセプトでき、成果発表にかかった費用は当初の予定より低くかった。
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次年度使用額の使用計画 |
前房水530サンプルの測定、脂肪酸測定の確立を行うため、試薬、カラム、メンテナンスの費用がかかり、特に、メンテナンスは数十万かかると予想している。現在、論文2報の執筆中で英文校正費、投稿費、成果発表、加えて、本研究の進展の必要な予備実験を予定している。 キャリアアップとして、人材交流、情報交換は重要と考えている。そのために、積極的に学会や講習会に参加し、他の研究者との交流を深め、本研究の進展へ努める。
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