研究実績の概要 |
本研究はヒドロキシリノール酸(HODEs)異性体を用いて、眼疾患の中でも重篤な緑内障の発症および進行に伴う酸化ストレス関与を科学的に解明し、緑内障早期診断・予後診断へ応用することを目的とする。HODEsはラジカル、一重項酸素、酵素に酸化されて生成するリノール酸由来の酸化物で、各酸化因子に特異的な6種の異性体をもつ。すなわち、各異性体の分布から疾病に関わる酸化メカニズムを理解することができる。眼疾患の多くは光暴露による眼由来の要因のほかに、身体由来の要因も示唆されているが、酸化に関する有益な報告は少ない。 そこで、HODEsは生体内で発生する様々な活性酸素種を区別できる強みを活かし、生体試料から緑内障に関与する酸化種の同定と酸化ストレスの関係性を精査した。一重項酸素は紫外線によって生成することから、一重項酸素に特異的な酸化生成物10-,12-(Z,E)-HODEに注目する。加えて、光暴露以外の要因も考えられるため、他のHODE異性体を分布化し、緑内障に関与する酸化種の同定を試みた。 広義原発開放隅角緑内障(n=198)、非緑内障対照群( n=119)を含む317名について、血清中のHODE異性体を測定し全研究対象者の臨床指標をデータ化した。両データの多変量ロジスティク回帰分析により緑内障病態の各種背景因子を調整したうえで、酸化ストレスの関与度を算出した。その結果、広義原発開放隅角緑内障群のHODEsは非緑内障対照群と比較して高値を示し、有意差を認めた。広義原発開放隅角緑内障群と非緑内障対照群の群間で有意差を確認した数種の背景因子の調整後も、眼圧と酸化ストレスは緑内障と重要な因子であることが示唆された。血清データから、「眼の病態」と「体の酸化障害」の関与が示唆された。さらに詳細な検討として眼内液(すでに取得済み)等の解析を進めており、緑内障に関与する酸化種の同定を推進している。
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