本研究の目的は、(1)チンパンジーがどのように周囲の環境と関わり行動できるようになるかを、多様な遊びの観察を通して明らかにすることと、(2)ヒトの遊びとの比較によって、ヒトとチンパンジーそれぞれの発達過程の特徴を明らかにすることである。当初の予定では、タンザニア・マハレ山塊国立公園での野外調査で新たに得られたデータを元に分析をおこなう計画であったが、大学業務の都合により野外調査は実施せず、これまでの調査で得られたデータを用いながら、野生チンパンジーと飼育チンパンジーの比較や、ヒトの乳幼児との比較研究を進めた。 平成29年度には2本の論文を執筆した。1本は、自然体験を重視する「森のようちえん」の保育活動について、その現状・課題と展望についてまとめた論文である。自然環境の様々な要素とかかわる遊びを通した学びや育ちにはヒトとチンパンジーで共通点があるが、ヒトの保育においては、子どもの経験や育ちを深めたり広げたりする大人の関わりが重要であることを指摘し、現状の「森のようちえん」の課題をいくつか示した。また、森のようちえんの保育には、国内の保育・幼児教育の問い直しにもつながり得る内容が含まれていることを指摘し、今後の展望について論じた。 もう1本は、野生チンパンジーと比較しながら、ショーやテレビに出演する飼育チンパンジーの感情表出について動物福祉の観点から分析した論文である。とくに遊びにおける笑いの表出と、不安や不満を示す表情の表出に注目し、チンパンジーを動物ショーやテレビに使用することがもたらす問題点について論じた。また、飼育動物の福祉について考える際に、ストレスを示す行動指標や生理指標だけでなく、遊びや笑いにも注目することが有効であることを示した。
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