研究課題
28年度はω-OH超長鎖脂肪酸(C=32,34,36)の合成を達成し,アシルセラミドの合成も達成した。しかしそれら物性や人工皮膚モデルへの応用、塗布治療薬への可能性を確認するためにはグラムスケールの合成が必要となることがわかった。そこでω-超長鎖脂肪酸の量がアシルセラミド合成の律速になる。そこでグラムスケール適応可能な合成ルートを再検討し、鎖長反応であるWittig反応の溶媒を改善、および反応基質を改善することで、これまでアルデヒド対リンイリドを2:1で混合していたものを1:1かつ収率80%以上で達成することに成功した。さらにセラミドはスフィンゴイド塩基を持ち、その生体内に存在する立体はD-erythreo型である。これは生体内のL-セリンより合成されるが、アミノ酸のキラリティーによって経皮吸収が異なる報告もされていることから、そのエナンチオマーであるL-erythro型のアシルセラミド合成にも着手しており、現在スフィンゴイド塩基と超長鎖脂肪酸およびリノール酸のカップリングを検討している。またガラスプレートを基盤としたアシルセラミドの人工皮膚モデル作成の検討も行なっている。一方、アシルセラミドを合成するアシルトランスフェラーゼ解明に関しては今年初めにその酵素がPNPLA1であることがNat.Commun.で報告された。しかし皮膚脂質関連酵素の光アフィニティーラベル法による釣り上げ実績はなく、またアシルセラミドのグリコシル化等を含めいまだ未解明な皮膚脂質代謝関連酵素群が存在する。従って今年度はまずアシルトランスフェラーゼを釣り上げる光アフィニティープローブの合成に成功し、その釣り上げ実験に移行している。
3: やや遅れている
アシルセラミドの物性や人工皮膚モデルへの応用、塗布治療薬への可能性を確認するためにはグラムスケールの合成が必要となることがわかり、グラムスケール合成対応可能なルートを再検討する必要があり、それに時間を費やすこととなった。また光アフィニティープローブのリガンドとして用いる際、プローブ合成の困難さから当初の予定以上にω-OHセラミドが必要になりその合成にも時間を費やすこととなったためである。しかし現在グラムスケールでの対応可能な合成ルートを確立させたので、本手法を用いてプローブを作成し、釣り上げ実験に移行している。
アシルセラミド合成に関してはタンパク結合型セラミドの前駆体であることも知られており、アシルセラミドのスフィンゴイド塩基1位の水酸基がグリコシル化後、結合型セラミドへと代謝することが最近の研究で判明してきた。そこでグリコシル化超長鎖脂肪酸含有アシルセラミドの合成については報告例もないため、それに着手する予定である。またアシルトランスフェラーゼの釣り上げ実験はプローブが完成しているので、それを用いて釣り上げ実験を行なっている最中である。さらに現在、新規ジアジリン型光反応基を開発しており、これを使用し、従来の光アフィニティーラベル法よりも効率的であることを本ラベル実験によって証明する予定である。
本年度は当初、光アフィニティーラベル実験(生化学実験)を行う予定であったが、アシルセラミド及び、プローブ合成実験にほぼ留まったため、その分の支出が抑えられた。またケミカルバイオロジー学会に不参加であったが、その分日本化学会含め他の学会参加費用にあてた。
差額分は次年度に光アフィニティーラベル実験(生化学実験)に充てる。
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Eur. J. Org. Chem.
巻: 2017 ページ: 1045-1051
10.1002/ejoc.201601302