研究課題/領域番号 |
15K16553
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
沓村 憲樹 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (00439241)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トリコモナス症治療薬 / 抗トリコモナス活性 / BNTX / オピオイド / 構造活性相関 / Knoevenagel縮合 / フェレドキシン / 抗酸化物質 |
研究実績の概要 |
本研究は、オピオイドδ受容体拮抗薬である7-ベンジリデンナルトレキソン(BNTX)誘導体の構造活性相関研究を通じて、新たな原虫感染症治療薬の創製に繋げる事を目的としている。 以前我々は、BNTXがクロロキン耐性マラリアに対して耐性解除活性を有する事を報告した。そしてこの活性発現にはBNTXのδ拮抗作用と生体内チオール(SH基)捕捉作用の両方が重要であるという仮説を提唱した。このチオールというのは、原虫が生体内で生存するために利用する抗酸化物質全般を示し、例えばマラリアではグルタチオン、トリコモナスではタンパク質のフェレドキシンがこれに当たる。 まず本仮説を証明するため、当初はマラリアのアッセイ系を利用する事で詳細な構造活性相関研究を行う予定であったが、我々が所有しているマラリアのin vivoアッセイ系では検体数を稼ぐ事が出来ない為、新しく効率的なアッセイ系を構築する必要があった。そこで、先行研究にてBNTXがin vitroで著しい抗トリコモナス活性を示した事に着目し、これを構造活性相関研究に利用する事とした。またこれまでのBNTX誘導体の合成法は、市販のナルトレキソンと種々のアルデヒドをAldol縮合していたが、収率が低い上に合成出来ない検体もあった。そこで、新たな合成法を検討した結果、ピぺリジンを塩基として用いるKnoevenagel縮合条件で劇的にBNTX誘導体の収率が向上する事を見出した。そして、この反応条件で合成した種々の検体について抗トリコモナス活性を調べたところ、既存薬であるメトロニダゾールには及ばないものの、ジメチルアミノ誘導体やメトキシ誘導体等、強力な活性を有する化合物を創出する事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はマラリアのin vivoアッセイ系を利用して、クロロキン耐性マラリアの耐性解除活性を中心に構造活性相関研究を進める計画であったが、検体数を稼ぐ事を優先してin vitroの抗トリコモナスアッセイ系を指標として研究を進める事とした。また、これまで問題点のあったBNTX誘導体の合成法を改良し、高効率的なサンプル供給を可能にした。この構造活性相関研究を通じて、強力な抗トリコモナス活性を示すBNTX誘導体の創出に成功した。この結果は我々が提唱する仮説、すなわち、オピオイドδ受容体拮抗作用とチオール(SH基)捕捉作用の両方を有するBNTX誘導体は、生体内で抗酸化物質を利用している原虫が媒介となる感染症の新しい治療薬になる可能性を示唆している。現在、BNTX誘導体の持つ共役二重結合が重要であること、ベンジリデン部位の芳香環は必ずしも必要で無い事が分かったので、構造変換部位をさらに拡大し、より詳細な構造活性相関研究を進める段階である。
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今後の研究の推進方策 |
BNTX誘導体のベンジリデン部位の芳香環をアルキル基に変換した検体を合成する。アルキル基に関しては立体障害や水溶性官能基の有無が活性にどのような影響を与えるか検討する。また、BNTXのエーテル酸素を除去し、骨格に自由度を持たせた場合の検討も行う。また、17位窒素上の置換基をこれまでのシクロプロピルメチル基から種々の置換基に切り替えた時、活性がどのように変化するか検討する。さらにベンジリデン部位の共役二重結合に脱離基を導入し、チオールが捕捉された場合、不可逆的な生体反応が進行する様、分子変換を行う。 抗トリコモナス活性についてはMICだけではなく有力な検体についてIC50を算出し、またオピオイド活性については各受容体への親和性の検討だけではなくGTPγS結合試験も行う。有力な検体や構造活性相関研究により得られた情報については、再びマラリアの薬剤耐性解除活性試験へとフィードバックし、in vivo活性試験を行う。 さらに最近、BNTX誘導体の合成過程において新規転位反応が進行することを見出した。今後は有機合成化学上興味深い本反応についても研究展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は構造活性相関の指標として、これまでの研究に倣いin vivoにおける耐性マラリアの耐性解除活性を利用する計画であった。しかし、BNTX誘導体の合成法を改良する事に成功して効率良く多くのサンプルをアッセイ試験に供給する事が可能となった為、in vitroの抗トリコモナス活性試験をベースとした構造活性相関研究に計画を切り替えた。その為、マウス等のin vivo試験に計上していた予算を削減する事が出来、その分を有機合成試薬や溶媒の購入予算に切り替えた。
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次年度使用額の使用計画 |
抗トリコモナス活性をベースとした構造活性相関研究が非常に順調な為、有機合成試薬や溶媒への予算計上を当初の計画よりも増やし、BNTX誘導体のサンプル数を充実させる。これまではベンジリデン部位の変換(ベンゼン置換体を中心とした芳香族)、二重結合の還元、フェノール性水酸基の保護(オピオイド受容体への親和性を意図的に低下させる為)を検討してきたが、今後はベンジリデン部位をアルキル基へ変換したり、17位窒素上のシクロプロピルメチル基を他の置換基へ変換した誘導体の合成を試みる。また、BNTXの母骨格であるエーテル酸素を除去する事で分子全体の自由度を上げ、活性への影響を検討する。活性試験は引き続き抗トリコモナス活性とオピオイドへの親和性を検討するほか、オピオイド受容体へのGTPγS試験(作動活性試験)も新たに検討する。また、耐性マラリアのモデルマウスを用いて、薬剤耐性マラリアの耐性解除活性についても検討する。
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