研究課題/領域番号 |
15K16555
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
大野 修 工学院大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (20436992)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | tomuruline / 栄養飢餓 / 2-deoxy-D-glucose / ミトコンドリア / 電子伝達系 / シアノバクテリア / kalkipyrone / 解糖系 |
研究実績の概要 |
沖縄県石垣島で採集した海洋シアノバクテリアSymploca sp.より単離した新規チアゾール含有ポリケチド化合物tomurulineについて、複数のがん細胞に対して解糖系阻害条件時に選択的な細胞死誘導活性を示すことを見出した。また、tomurulineが解糖系阻害剤である2-deoxy-D-glucose(2DG)併用条件でがん細胞のATPレベルを低下させることを見出した。さらに、ウシ心臓由来ミトコンドリアを用いた評価により、tomurulineがミトコンドリア呼吸鎖複合体Iに対し選択的な阻害活性を示すことを見出した。以上の結果より、tomurulineがミトコンドリア電子伝達系に対する選択的な阻害剤であることを解明し、栄養飢餓条件としてグルコース飢餓条件選択的な細胞死誘導剤としての機能を有することを見出すことができた。 続いて、tomurulineと同様に、栄養飢餓選択的にがん細胞に細胞死を誘導する薬剤を天然より探索した。スクリーニング系として、がん細胞の播種細胞密度の差を利用し、栄養飢餓状態に陥る高細胞密度条件選択的に細胞死を誘導する薬剤の探索系を構築した。各種海洋生物由来サンプルを評価した結果、沖縄県国頭郡で採集したシアノバクテリア抽出物に活性を見出した。活性成分を精製し、既知ポリケチドkalkipyroneを単離した。生物活性の解析により、kalkipyroneはtomurulineと同様、複数のがん細胞に対して2DG併用条件選択的な細胞死誘導活性を示すことを見出した。また、ウシミトコンドリアを用いた評価により、kalkipyroneもミトコンドリア呼吸鎖複合体Iに対する阻害活性を示すことを見出した。本結果より、kalkipyroneもグルコース飢餓条件選択的な細胞死誘導剤としての機能を有することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、目標の一つとした、tomurulineのがん細胞に対する栄養飢餓選択的な細胞死誘導機構の解明を達成することができたため。tomurulineについて、複数のがん細胞を用いた解析を試み、栄養飢餓選状態として特にグルコース飢餓状態選択的な細胞死誘導活性を明らかにできた。さらに、本活性がミトコンドリア電子伝達系の阻害に基づくことをウシ心臓由来ミトコンドリアを用いた解析で明らかにすることができた。以上の結果より、tomurulineに新たな栄養飢餓選択的細胞死誘導剤としての機能を見出すことができ、今後の応用に向け有用な知見を得ることができた。 また、同じく目標の一つとした新たな栄養飢餓選択的薬剤の探索についても順調に進めることができた。栄養飢餓選択的細胞死誘導剤の探索に向け、播種細胞密度に着目した独自のスクリーニング系を構築することができた。本スクリーニング系を活用することで、既知化合物であるkalkipyroneに栄養飢餓選択的細胞死誘導活性を見出すことができた。kalkipyroneについてもtomuruline同様、新たな栄養飢餓選択的細胞死誘導剤としての機能を見出すことができた。今後、新規化合物で同様の活性を有する化合物の発見につなげて行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
tomurulineについては、がん細胞に対する栄養飢餓選択的な細胞死誘導活性に寄与するミトコンドリア電子伝達系阻害活性について、さらに詳細な解析を進めたい。具体的には、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iのどの部位で働くかについて解析を進めて行く予定である。また、tomurulineの構造活性相関について、更なる知見を得る。その結果を基に修飾部位を決定し、プローブ化へと展開していき、上記作用部位の解明へとつなげて行きたいたいと考えている。さらに、tomuruline生産シアノバクテリアの培養を行い、tomuruline生合成遺伝子の解明を目指す。 kalkipyroneについては、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iに対する阻害活性の選択性についてさらなる解析を進めて行く。また、kalkipyroneが誘導する細胞死の種類についても詳細を明らかにする。さらに、類縁体を用いた解析を通じ、tomurulineと同様に標的分子とその結合部位を明らかにする研究へと発展させて行く。 一方で、構築したスクリーニング系を活用することで新たな栄養飢餓選択的薬剤の探索を進めて行く。特に新規化合物でtomuruline、kalkipyroneよりも強力な活性を有する化合物の発見を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品として購入予定であった、ケミルミ撮影装置ナチュラルイムニティ社製 Multi Imager II 674SFについて、所属機関に代替品が共通機器として備わっていたため、その分の費用を別の物品費等に回したが、余剰金が生じたため次年度へ繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の余剰分は物品費に使用する予定である。翌年度分として請求した助成金は予定どおり、物品費、旅費、その他の経費に使用する予定である。
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