細胞外にはpHや温度、成長因子や情報伝達物質などの解析の対象とすべきさまざまな要因や生命現象が存在すると考えられるが、そのための手法は確立されていなかった。本研究では、細胞を三次元的に培養し、三次元培養における細胞外環境をリアルタイムにイメージングするための手法を新たに開発することを目的として、自己組織化ペプチドゲルを創製し、細胞の三次元培養へ展開し、三次元培養環境における細胞外pHのリアルタイム蛍光イメージングを行うことによりモデルシステムの確立を行うこととした。前年度に、両親媒性に設計した自己組織化ペプチドu(FFiK)2がβ-シート構造を形成してナノファイバーへと自己組織化し、中性条件下で透明なヒドロゲルを形成することを明らかにした。またu(FFiK)2は細胞培養に用いる培地でもヒドロゲルを形成でき、HeLa細胞およびHEK293細胞をゲル内に分散させることに成功した。本年度は、昨年度に引き続き、u(FFiK)2を用いて種々の細胞の培養を検討した。シート状に成型したペプチドゲル上で、HEK293細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、MCF7細胞、HT-29細胞などさまざまな細胞が培養可能であることを明らかにした。また、ファイバー状に成型したペプチドゲル上でHEK293細胞およびHeLa細胞を立体的に培養できることを見出した。以上より、細胞の三次元培養のための基盤技術を確立することができた。本研究で開発した自己組織化ペプチドu(FFiK)2を用いることにより、細胞集団を立体的に培養し、未開拓の領域である細胞外環境を可視化することができ、生命現象のより深い理解や新たな生命現象の発見において貢献するものと期待される。
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