本研究は、標的細胞に到達するまでは抗がん剤の薬効が抑えられており、標的細胞において光照射によって薬剤放出を制御可能な「ケージド抗体薬物複合体」の開発を目指して研究を進めている。 平成29年度は、前年度までに検討を進めたIgG抗体のN末端特異的修飾法を用いて、抗がん剤をN末端特異的に修飾した抗体薬物複合体の合成を行った。まず、抗がん剤であるチューブリン重合阻害剤Monomethyl auristatin F(MMAF)の末端2級アミノ基に対して、末端アルデヒドを有するPEGリンカーを連結させた抗がん剤アルデヒド誘導体を化学合成した。その後、乳がん細胞に過剰発現している上皮成長因子受容体2型(Her2)に対するIgG抗体とともに弱酸性条件下で混合し還元的アミノ化を行うことで、IgG抗体のN末端アミノ基特異的なMMAFの修飾反応を行った。反応液をSDS-PAGEで分析したところ、抗体重鎖のN末端アミノ基へのMMAFの修飾は確認できたものの、抗体へのMMAFの修飾効率が低かった。そこで、修飾反応条件の最適化を抗がん剤アルデヒドの代わりにPEGアルデヒド誘導体を用いて検討を進めたところ、水溶液中での反応効率が低下すると考えられる0度以下の低温において、抗体のN末端特異的修飾反応が高効率に進行することを偶然発見した。 そこで、この低温における反応を詳細に調べることと、低温で反応を行うことによるIgG抗体の活性への影響を調べるために、前年度に実施したIgG抗体のN末端特異的蛍光標識化を低温条件下で行った後に抗原を添加したところ、抗原濃度依存的に蛍光強度が増大したことから、蛍光免疫センサー分子としての機能を保持していることが確認された。よって、新たに発見した低温条件下におけるN末端特異的修飾反応はIgG抗体の活性に影響を与えないことが示された。
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