従来技術では、生きている細胞内で、どのような分子が会合し集合体を形成しているかを解析することができなかったため、本研究では、申請者が独自に開発した「HRP 発現型・高特異性 EMARS 法」を用いて、各種オルガネラ膜上分子アッセンブリー同定法を確立しようとした。 前年度までに、小胞体、ゴルジ、分泌小胞にHRPあるいはHRPと同様の酵素活性をもつAPEX融合タンパクを発現させ、細胞内の各種オルガネラにおいてEMARS法が適用可能であることを明らかにした。今年度は分泌タンパク質であるgalectin3を付加したgalectin3-APEX配列を組み込んだベクターを用いて、小胞にgalectin3を発現させ、EMARS反応にて標識された分子を質量分析にて解析した。具体的には、galectin3-APEX融合タンパク質を発現したHeLaWT、およびガレクチン3の糖鎖認識部位に変異(R186S)を導入したHeLaR186Sを作製した。HeLaR186S株はgalectin3の分泌が抑制されているため、HeLaWT株の対照区として使用した。まず、HeLa WTおよびHeLa R186S株においてEMARS反応を行い、反応後のサンプルを可溶化後、抗FITC抗体セファロースにかけて標識タンパク質を精製、濃縮し、トリプシンにて消化したペプチドをLC-MS/MS質量分析を用いて解析した。その結果、HeLa WTにおいて32個、HeLa R186Sにおいて52個のタンパク質が同定された。このうち、HeLa R186Sに同定されたタンパク質を除くと、16個のタンパク質がHeLa WTにおいて同定された。以上のことから、細胞内にてEMARS法が適用可能であり、標識された分子は質量分析にて解析可能であることを明らかにした。
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