研究実績の概要 |
膵臓がんは化学療法などの治療に対して抵抗性を示す難治性疾患であり、新たな治療法の開発が望まれている。本研究は膵臓がん細胞の代謝機構を理解し、膵臓がんを標的とした新たな抗がん剤シーズを取得することを目的とした。前年度に、①膵臓がん細胞株に対する細胞毒性および②細胞外酸性化速度(ECAR)・酸素消費速度(OCR)の変化を指標としたスクリーニングを行い、理研天然化合物バンク(NPDepo)の16,064化合物の中から膵臓がん細胞のエネルギー代謝を調節する化合物2種類を見出した(化合物A, B)。本年度は、これら2化合物の作用機序と効果のさらなる解析を行った。まず、化合物AはOCRの低下を誘導したことから、ミトコンドリアの呼吸鎖を阻害する可能性が示唆されていた。そこで、セミインタクト細胞を用いた評価系を用いて検証した結果、化合物Aがミトコンドリア呼吸鎖の複合体IIIの機能を阻害することを明らかにした。さらに化合物Aは、ヒトすい臓がん細胞株であるMIA PaCa-2 (IC50: 1.7 uM)やPANC-1 (IC50: 4.5 uM)に加え、線維肉腫HT-1080 (IC50: 1.8 uM), 胃がんMKN74 (IC50: 3.6 uM), 子宮頸がんHeLa (IC50: 1.7 uM)の各ヒトがん細胞株に対してもほぼ同程度の細胞毒性を示すことを見出した。一方、化合物BはECARの低下を誘導したことから、解糖系を阻害する可能性が示唆されたが、標的分子や抗腫瘍活性については現在も解析中である。
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