本研究は当初、タイミング制御の脳内部位の解明を目指して、発語モデル動物を使用する計画であったが、動物の自発的な求愛行動に依存する部分が大きく、刺激や記録用の電極を埋め込んだ状態での求愛音声コミュニケーションの成立を観測することが容易ではないことが明らかになった。統計学的な解析には高い実験再現性を実現する必要があるため、最終年度は、オペラント条件付けによるタイミング生成課題を新規に作成し、その条件付けによって、タイミング制御の脳内部位解明のための代替モデル動物の確立を試みた。その結果、求愛音声コミュニケーションが成立したときに見られるタイミング・時間精度に匹敵する、誤差15%程度で250ミリ秒程度のタイミングを生成させることに成功した。当初の目的である発語のタイミング制御ではないものの、動作のタイミング制御の機構と脳内関連部位を解明していく上では、再現性の高い有用な動物モデルを確立させることができたと言える。更に、動物はこの僅かな時間のタイミングをキュー毎に切り替えることが可能であること、そして、動物の課題への集中の程度に応じて、精度が動的に変化する(統計学的に有意に、ある時間帯において時間精度が極めて高くなる)ことの2点が新たに明らかになった。意識的・意図的なタイミング制御はヒトが音声の発話も含む高度な運動をするときに欠かせない制御となっているので、音声や音楽のリズムに関する研究やスポーツにおける動作タイミング・リズムの研究への応用も期待される。これらの点に関してまとめた論文は現在執筆中の段階だが、その一部は平成30年7月の国内学会にて研究成果発表を行う。
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