研究実績の概要 |
中国やインドなど高濃度のフッ素を含む井戸水を飲料水として摂取している地域では、多くの児童に斑状歯が認められ、慢性的に摂取し続けることで、風土病である骨フッ素症を発症している。近年、これらの症例に加え飲料水中フッ素の摂取による児童のIQ低下が報告されている。この報告によりフッ素の神経毒性が懸念され、ラットやマウスを用いて記憶学習能力への影響が研究されている。しかしながら、成熟期に高濃度で短期間摂取させた報告はあるが、妊娠期から仔の成熟期に至るまで低濃度で長期間摂取させた報告はない。本研究により、飲料水中フッ素摂取による若齢および成熟ラットのIQ低下の影響を明らかにすることを目的とした。 低濃度フッ素摂取によるマウスの記憶学習能力への影響の検討を行った。妊娠が確認されたICRマウスにフッ素入り飲料水0,5,10,50ppmと対照群には水道水を自由摂取させた。出産後、21日目に離乳させ、全ての群において母体と同様の濃度のフッ素入り飲料水を半年齢まで自由摂取させた。観察期間中、健康状態(餌、水の摂取量、体重の測定および死亡の有無)を確認した。仔が6ヵ月齢を迎えた際、記憶学習能力を評価するY-maze、Barnes mazeおよびオープンアームへの侵入回数の低下により不安を評価する高架式十字迷路を用いて評価した。 Y-mazeでは5、25および50ppm群の空間作業記憶が対照群に比べ有意に低下していた。Barnes mazeでは滞在時間が5、25および50ppm群で対照群に比べ有意に低下していた。高架式十字迷路ではオープンアームへの侵入回数が5ppm群で対照群、25ppm群および50ppm群に最も多かった。 胎児期フッ素投与による、Y-mazeとBarnes迷路の結果から曝露群(5、25、50ppm群)の認知機能の低下が示唆された。
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