研究課題/領域番号 |
15K16571
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
中森 智啓 北里大学, 一般教育部, 助教 (50725348)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 刷込み行動 / 臨界期の制御 / 神経可塑性 |
研究実績の概要 |
幼少期における学習の代表であり、成立可能な時期(臨界期)が限定されている鳥類の刷込み行動を学習モデルとして用い、臨界期の終了を制御している遺伝子の特定やその制御メカニズムを解明し、さらには臨界期の制御が可能な動物モデルの作成を目指すことが、本研究の目的である。当該年度においては、DNAマイクロアレイなどの結果から選別された、あるペプチドファミリー(ペプチドX1,X3およびY)とその受容体(受容体2および3)の遺伝子発現解析・機能解析を行った。これらのペプチドや受容体は、いずれも刷込みに重要な脳領域に強い発現が観察され、またペプチドX1とYは臨界期中よりも臨界期終了後に発現が高く、ペプチドX3は臨界期中に発現が高いことが分かった。また、これらのペプチドは刷込み学習によっても発現量が変動することも明らかになった。さらに、合成したペプチドXを刷込みの成立に重要な脳領域に注入した場合、刷込みの学習効率の向上や、臨界期の延長が起こった。これらの結果から、刷込みの成立や記憶の維持、また臨界期の制御機構には、このペプチドファミリーの働きが重要であることが分かってきた。 刷込みの成立にはNR2Bを持つNMDA受容体(グルタミン酸受容体の1種)の活動が必要であることが分かっている。NMDA受容体の活動によってArcという最初期遺伝子の発現が一時的に高まることを利用して、刷込み記憶の痕跡を調べる解析を細胞レベルで行った。刷込みによって、脳内の特定の神経細胞が活性化し、その細胞が刷込み記憶の想起にも使われていることが分かった。また、刷込み学習の成立に伴い、刺激によって誘導される脳内の神経活動領域が減少し、特定の神経回路のみが強化されることも分かった。これらの結果をまとめ、論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度までの当初の実験計画では、DNAマイクロアレイの解析から臨界期の終了に関与している遺伝子群の同定を行い、さらに遺伝子発現解析や機能解析に基づき、刷込みの臨界期終了を制御している遺伝子の特定を行うことであった。当該年度における研究において、刷込みの成立や獲得した記憶の維持、さらには臨界期の開始・終了の制御に関わる一群のペプチドファミリーおよびその受容体を特定した。これらのペプチドは刷込みの成立に重要な脳神経細胞で発現が見られるが、どの神経細胞が刷込みの成立や記憶の想起の過程で活動しているのかを最初期遺伝子のArcの発現解析によって細胞レベルで詳細に調べ、学術論文として発表を行った。これらのことから、本研究課題の進捗状況は、当初の予定以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
特定された刷込みの成立や維持、および臨界期の制御に関わるペプチドファミリーは、ニワトリの終脳においては、一部の神経細胞で強く発現が観察された。しかしながら、これらのペプチドやその受容体が発現している神経細胞の種類や特性は明らかになっていない。そのため、ペプチドが発現している細胞の蛍光標識を行う、あるいは2重染色法によって、発現細胞の種類や神経投射などを調べる予定である。また、今回明らかとなったペプチドとその受容体の結合親和性について、鳥類では未だ報告がない。そのため、培養細胞系を用いた結合親和性を調べる研究が今後必須となる。さらには、ペプチドやその受容体の発現量や機能を変異させた個体を作製し、神経細胞の形態や活動の変化、また刷込み行動やその臨界期への影響を詳細に調べることで、臨界期終了の制御メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年8月にフランスのパリで開催されるInternational Society for Neurochemistry (ISN) Meetingに参加・発表するための旅費が必要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、上記の国際学会への参加費用に充てる。残りの額の使用は当初の研究計画の通りである。
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