研究実績の概要 |
本研究課題は、ニワトリ雛の視覚的刷込み行動をモデルとして使用し、幼少期学習における神経細胞の可塑的な変化起こりやすい時期(臨界期または感受性期)を制御している新規遺伝子の発見及び、その遺伝子の神経可塑性における役割を解明することを目的として行われた。本年度は特に、刷込み学習にとって重要な脳部位であるvisual Wulst(VW;哺乳類の視覚野に相当)におけるナトリウム利尿ペプチドファミリー(NPs)の働きについて重点的に調べた。刷込み学習を行ってからの時間経過によるNPsのVWにおける発現量の変化を調べたところ、学習後3~6時間後において、CNP3およびOSTN(NPsのサブタイプ)の発現上昇が観察された。これらの遺伝子は、刷込み成立が可能な臨界期(孵化1~4日後)と臨界期後(孵化5日後以降)ではVWにおける発現量が大きく異なることや、発現細胞がVWに集中していることが分かっている。このことから、CNP3およびOSTNが、刷込み成立やその臨界期の調節機構に重要な働きを持っていることが考えられた。また、NPsの受容体としては3種類(NPR1,NPR2,NPR3)知られているが、鳥類におけるNPsと受容体の結合能についての詳細はこれまで知られていなかった。そこで、培養細胞にそれぞれの受容体を単独で発現させ、それぞれのNPsとの結合能を調べた。その結果、NPR1にはCNP3が、NPR2にはCNP1が最も結合能を持つことが分かった。また、NPR3にはOSTNが結合すると考えられた。受容体の発現は終脳内に広く分布していた。これらの結果から、CNP3がNPR1を介して、またOSTNがNPR3を介して特定の細胞に働くことが、刷込みの成立や維持に重要であると考えられた。
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